第7話
その咲からの言葉は宏太の心のもやを吐露する力にはなったらしい。その証拠に小さく息を漏らしたかと思うと、彼は静かに語り始めた。
「えっと…。気遣ってくれてありがとうございます。ですが、桂川さんのせいではないんです。むしろ誰のせいでもないっていうか…。俺の気持ちの問題っていうか…。」
「どういう事、ですの…?」
「俺が桂川さんに対して…恐怖みたいなのを感じてしまったんです。その…両親からの話がきっかけで…。」
そう言い始めたかと思うと宏太は更に続ける。『奈瑠の事を信用して良いのか?』と問われた事や、『彼女と関わるな。』と言われてしまった事をだ。それらの話はある意味、自分の両親の事を責めるよう内容にもなってしまったからか。心苦しさを感じてしまった宏太は気まずそうに視線も泳がせるのだった。
一方の咲は宏太の話に終始耳を傾け続ける。だが、その内容や様子から彼が家族から苦言されても、奈瑠とこれからも関わる事を望んでいると分かったからだろう。咲の胸の痛みは心なしか更に強まっていく。それでも『特別な想い』を抱く相手が未だ沈んだ様子を見せているからか。必然的に彼を少しでも力付けたいと感じたらしい。それを示すように彼女は告げた。
「…あなたが考え込む理由は分かりましたわ。確かに彼女…桂川さんは私達と少し違うから『恐ろしい』と感じるでしょう。現に私も『恐ろしい』と感じる事はありますわ。まぁ…それ以上に私の場合は『油断ならない娘』って感じですが。」
「えっ…?それって、どういう…。」
「失礼、こちらの話です。とにかく…あなたと同じような感覚は私も持っていますし、他の方は更に強いと思いますわ。大半の方は彼女と関わる事が少ないですし、その分正体が分かりませんから。」
「…。」
咲から周囲の人々の心情について聞いた宏太は徐々に納得していったのだろう。泳いでいた目の動きは落ち着いていき、咲の事を真っ直ぐ見つめられるようになっていく。そして咲は彼の様子の変化に気が付いた上で続けた。
「けど…あなたは違うでしょう?柳生君。…あなたは皆とは違う。彼女と関わる事が出来る数少ない人の1人だと思うわ。」
「桜田門さん…。」
「だから…自信のようなものを持って良いと思うの。…大丈夫よ。あなたは強くて心優しい人。この先もきっと受け止め続けられると思うわ。彼女の…『友達』なんだから。」
「…っ!はい…!」
咲からの言葉で更に目が覚めたのか。宏太は力強く頷く。その表情は少し前とは違い気分が少しでも軽くなった事を表すように晴れやかなものになっている。そんな彼の様子を咲は微笑みながら見つめていたが、その目頭は熱く胸の痛みも強まる一方だった。
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