第5話
そんな自宅から逃げるように飛び出していった宏太と優子。だが、脱出しても心が不安定になっているからだろう。常日頃とは違い、2人が言葉を発する事はない。終始無言のまま学校に向かって歩き続けるだけだ。自宅から続けて張り詰めた空気を背負ったまま…。
その後、結局互いに何も語る事なく、それぞれの学校へと辿り着いてしまった優子と宏太。校内は2人の様子とは真逆で相変わらずの賑やかな様子だ。それにより2人の気分は僅かに浮上したが、すぐに下がってしまう事になる。優子は昨日余計な事を言ってきた健介達に、宏太は元凶のような存在である奈瑠と顔を合わせてしまったのだから…。
校舎の玄関にて奈瑠と対面した事で思わず固まってしまう宏太。その瞬間、様々なものが自分の中で更に勢いよく駆け巡ってしまったからだろう。宏太は額に汗を拭き出させ、下腹部に僅かな痛みのようなものも感じ取る。それだけでなく急激に背中が重く感じてしまったらしい。危うく前のめりに倒れてしまいそうな感覚にもなるのだった。
だが、宏太が倒れる事は結局なかった。急に背中が軽くなった事で、何とか踏ん張り直す事が出来たのだ。その変化に当然驚き戸惑う宏太だったが、すぐに原因等を察する。奈瑠が自分の肩に触れたという事に…。
「奈瑠、さん…。」
「…しっかりしなさい。隙を作ったら乗っ取られるわよ。」
「はっ、はい…。ありがとう、ございます…。」
彼女の言葉や態度から自分の肩に触れた瞬間、『何か』を取り払ってくれた事。それにより体の不調が落ち着いた事を悟ったからだろう。宏太はお礼を口にする。それでも脳裏に昨晩の両親の姿が過り、それに伴い再び心のもやが芽生えてしまったらしい。宏太は続きの言葉を発する事が出来なくなってしまう。そして当の奈瑠の方は宏太の変化に気が付いているのか、いないのか。それ以上は何も言わず立ち去り、その背を宏太は無言で見つめるのだった。
それから更に時間は経過して。登校時や直後には精神状態が不安定な宏太だったが、あの後はいつも通りに授業が始まったからだろう。そちらの方に集中していった事で心なしか気分は落ち着いていく。だが、それも授業の時だけ。放課が始まると授業に集中出来なくなるからか。放課の度に心のもやは何度も芽生え、大きくなって宏太の体を襲っていく。そして心のもやに襲われた事で再び体の不調を感じたりした宏太は、ほぼ自分の席から動かないで過ごしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます