第3話
だが、戸惑いと同時に皆の言葉を発端に疑念を抱くようになる。特に疑念を大きくしてしまったのは、やはり優子よりも関わりが薄い健介達だった。その証拠に校舎から出た後、こんな言葉を呟いたのだから…。
「本当…なのかもな。アイツらが言っていた事…。」
「えっ…?何の話…。」
「いや、ほら。さっき教室で皆が言っていただろ?『あの人が危ない人だ』って…。間違っていないんじゃないかなって思って…。」
「…どういう事?」
「だってさ!この夏休みの間に起きた『不思議な出来事』って、ほとんどあの人…『桂川 奈瑠』がいただろ?もちろん俺達は助けて貰ったりもしたから感謝もしているんだけど…。今考えたらあの人がいなければ『不思議な出来事』も起きなかったんじゃないかなって思ってさ。」
「稲葉君…。」
クラスメイト達の言葉により芽生え、膨らんでしまった小さな疑念。しかも小さいと思われていた疑念は予想以上に大きいものであったらしい。健介は次々と言葉を発してくる。更には健介と行動を共にする事が多い『谷川 徹(たにかわ とおる)』も密かに同じ事を思っていたようだ。それを表すように形は健介の言葉を制止させようとしているが強くは言い返してこない。そして健介達の様子に優子は彼らが奈瑠に対する疑念等を大きくしているのを悟ったのだろう。悔しそうな表情を浮かべた後、彼らの前から立ち去ってしまう。何やら背後から呼び止めようとしている声に耳を塞ぎ、逃げ出している事を表すような勢いで…。
更に優子達にとって気に病む事態が起きる。連日仕事が忙しかった両親が珍しく少し早めに帰宅。久し振りに家族4人揃って夕食を摂ったのだが、その時に両親から言われてしまったのだ。『奈瑠との付き合いを改めるように。』という事を…。
「改めるって…どういう事?」
「そのままの意味だ。最近、その『桂川 奈瑠』っていう娘と関わって楽しそうにしているようだが、大変な目にも遭っているんだろう?現に夏祭りの後になかなか帰って来なかったり、宏太はおかしくもなっていたりした。忙しくてもそういう変化は分かるんだ。家族なんだから。」
「そうよ!それに少しまえまであなたは普通と違う生活を送ってきたのよ?そこから帰ってきたっていうのに…何かあったらどうするの?また行方不明になるっていうの!?そんなの嫌…嫌よ!」
「父さん…。母さん…。」
淡々と理由を語る父の一方で、母は声を荒げてくる。それも声以上に感情が乱れてしまったらしい。遂には涙を滲ませながら叫ぶように言葉を発してくる。そんな両親の言葉や様子は2人にとって初めて見聞きしたものだったのだろう。言葉を失ってしまうのだった。
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