第47話

そうして奈瑠の指示を受けて『蛇寿美』が術を解く少し前の事。縛られ続けていた咲は『ある夢』を見ていた。自分の体から生まれた『軟体のもの』が大好きな宏太を含めた村人達を次々と襲うという夢を…。

(そんな…!確かに桂川奈瑠の存在は否定しました!だけど他の人達の事は…嫌じゃないの!否定はしていないの!なのに…何で…!?)

『何デダナンテ…。コレガアナタノ望ミナンデショウ?イツノ間ニカ彼女ノ事ヲ受ケ入レテイタ皆ノ事ヲ…アナタハ否定シテ密カニ恨ンデモイタ…。ソレヲ叶エタダケデスヨ?』

(違う…!違います!)

夢を見る直前に『蛇寿美』が禍々しい空気を漂わせていたのを見たからか。悪夢とも言える夢を咲は必死に否定するが、当の『蛇寿美』は容赦してはくれない。そればかりか次々と咲の体から『軟体のもの』を生ませると、それを使って村人達を襲わせ続けていた。


 そんな悪夢がしばらく続いて。咲の目の前には『軟体のもの』からの攻撃を受けたからだろう。宏太も含めた村人達が血に汚れた体を横たえさせている。その光景は目を背けたくなるものだったが、『蛇寿美』は咲を金縛りにさせているらしい。それを表すように視線を反らす事が出来ず、悲惨な光景を見させられている。しかも見させられている現状は現実のものではないからか。一通り村人達を傷付け倒した後は、巻き戻すように再び立たせ傷付けさせたりもするのだ。その不快としか感じさせない光景が何度も繰り返されているからだろう。咲の精神状態は崩壊寸前だった。

 だが、遂に悪夢も終わりの時を迎える事になる。目の前で何度も傷付けられていた村人達の姿が次々と消えていったのだ。そればかりか急に目の前が暗転。咲は何も見る事が出来なくなっていた。

(何が…起きているのかしら…?)

悲惨な光景を何度も見させられ、思考が上手く回らなくなっていたからか。状況が変わってしまった事に気が付いてはいたが、咲はその場から一向に動こうとはしない。ただ広がってしまった闇を見つめるだけだ。それでも状況は確実に変化を続けているらしい。現に咲の前に人魂のような炎が出現すると上下左右にと動き始める。その炎は掌に収められそうなほどに小さなものだったが、誘うような動きを見せていたからか。咲の手は自然とその炎に向かって伸ばされる。そして触れた瞬間、咲の意識は遠退いてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る