第45話

そんな『蛇女』の思考を読み取るように侵入者は遂にその姿を現す。だが、現れた姿に『蛇女』の戸惑いは強くなるばかりだ。というのも、強い気配を漂わせていたのは幼さの残る1人の少女だったのだ。その正体は『蛇女』にとって予想外過ぎるものだったのか。続けて『軟体のもの』を呼び出す事だけでなく、少女から漂う妖力を感知する事も怠ってしまう。それにより一瞬とはいえ、『蛇女』は固まった状態で少女を見つめるのだった。

 一方の侵入者…奈瑠は自分を見つめながら固まる『蛇女』と対峙し続ける。だが、妖力を感知する事を怠ってしまうほどに思考が止まった『蛇女』とは違い、奈瑠は冷静に状況を把握していく。そして咲が蛇のようなものに体を拘束され動けなくなりながらも、気絶しているだけだと分かったからだろう。ようやく我に返った『蛇女』を見つめながら改めて告げた。

「初めまして。そこに縛り付けている人を返して貰おうと思ってきたの。というわけで…返して貰えるかしら?」

『っ!何ヲ当然ノヨウニ言ッテイルノ!?ソンナ事出来ル訳ナイデショウ!?彼女カラモット力ヲ得テ…!私ハ最強ノ妖ニナルノヨ!ダカラ邪魔ハサセナイワ!』

「そう。なら…仕方ないわね。」

『蛇女』が我に返った事で改めて自分の望みを告げる奈瑠。だが、丁寧に告げても当然のように『蛇女』は歯向かってくる。奈瑠が宿す力の強さに気が付いているはずだというのにだ。その頑なさは奈瑠にとって呆れてもしまうものだったが、自分が今いる場所が『蛇女』の領域だと分かってもいるからだろう。『蛇女』の行動を観察しつつ、戦闘に向けて妖力を練るのだった。


 そこからは自分達の妖力をぶつけ合う戦いが始まった。といっても、攻撃してくるのは主に『蛇女』の方ばかり。侵入者である奈瑠は『蛇女』に向けて力をぶつける事はほとんどなく、自分の方に向かって這ってくる『軟体のもの』を妖力から生んだ炎で焼くばかりだ。しかも自分の領域内だというのに相手は随分と余裕があるらしい。多くの『軟体のもの』を呼び出しても次々と焼かれ消滅してしまい、軽やかに動きながら咲の方に近付いてもいる。その事は当然『蛇女』にとって苛立ちしか感じさせない行為だ。現に『蛇女』の感情が乱れているからだろう。部外者が侵入出来ないように張っていたはずの結界も乱れ、崩壊の前兆を表すように震動も感じていた。

「…良いのかしら?結界が壊れ始めているみたいだけど。」

『ウルサイ!アナタノセイヨ!アナタガ現レナケレバ…!私ハモット強イ妖ニナレタノニ…!アナタガ邪魔ヲスルカラ…!私ハ多クノ力ヲ失ッテシマッタノヨ!結界ヲ保ツ事ガ出来ナクナルホドノ力ヲ…!許サナイワ!』

結界が壊れ始めている事を指摘するように奈瑠は呟く。すると奈瑠のその呟きは更に『蛇女』の感情を高ぶらせてしまったらしい。『蛇女』は怒鳴り声を上げる。そればかりか奈瑠に止めを刺すつもりらしく、『蛇女』は素早く後退りをして一旦距離を置く。そして残った妖力を消費して自分の体を巨大な蛇に変化させると、奈瑠に向かって突っ込んでいく。

『コレデ…終ワリヨ!』

そう叫びながら『蛇女』は奈瑠の体に強い力を込めながら巻き付く。彼女の体を粉砕させそうなほどの強い力で…。

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