第44話
一方その頃。『あちら側』の更に奥にある一角…強固な結界に張られた空間に咲はいた。その目の前には咲が抱いていた苛立ちや怒り等の『負の感情』を具現化させ取り去ってくれた女性もいる。だが、咲は黒い蛇のようなものに体を巻き付かれていて身動きが取れない。それだけではなく咲の目の前にいる女性の表情は微笑みなのだが、その姿は以前とは変わってしまっている。白く滑らかで美しかったはずの肌が黒く変色し、ウロコに覆われているのだ。明らかに爬虫類と思われるウロコに…。
『ドウシマシタカ?咲。私ガ怖イデスカ?アナタノ中ニ眠ル嫌ナ感情ヲ取リ払ッテ上ゲタ…コノ優シイ私ガ…!』
「…っ!」
『ドウヤラ答エルノモ難シクナッテキタミタイデスネ?デモ私ハ…マダ欲シインデスヨ。アナタノ中ニ眠ル負ノ力…邪気ガネ!』
一方的に話を続ける女性はその言葉通り、咲から邪気のような『負の力』を吸収し続けたからか。体の変化はウロコに覆われている事だけでなく、いつの間にか下半身が蛇のような形にまでなっている。ほぼ『蛇女』という表現が正しい状態だ。それでも女性は満足していないのだろう。感情と共に気力まで奪われ続け答える事が出来ない咲に手を伸ばす。獲物を仕留める瞬間の蛇の瞳で見つめながら…。
だが、結局女性が咲の『心の闇』から新たに力を得る事は出来なかった。というのも、結界を張り巡らせ自分と咲以外は誰も侵入出来ないはずの空間に、第三者の気配を感じ取ったのだ。それも侵入してきた第三者は相当に強い妖力を宿した者らしい。その証拠に咲から力を得て強化されているはずの『蛇女』の体が勝手に震え始めていたのだ。まるで感じ取った力の強さに怯み恐怖を抱いてしまった事を示すように…。
(…ッ!ドンナ奴ガ侵入シテイヨウトモ…関係ナイ!私ノ力ニスルダケヨ…!)
恐怖を抱いている事を自覚しながらも、『蛇女』は心の中で呟き己を奮い立たせる。そして侵入者の『心の闇』も吸収するつもりなのだろう。『蛇女』は相手の『心の闇』を取り込む事が出来る『軟体のもの』を自分の体から生み出すと、侵入者のいる方向へ向かわせるのだった。
そうして『軟体のもの』を向かわせたが、やはり侵入者からも力を得る事は出来なかった。侵入者のいる方向へ這っていこうとした『軟体のもの』が弾かれるように吹き飛ばされたのだ。そればかりか吹き飛ばされた『軟体のもの』達は次々と炎を上げて消滅していく。焼き尽くされていくように…。
『…ッ!?一体、何ガ起キタノ…!?』
初めての事態に思わず声を上げる『蛇女』。だが、その問いかけに『軟体のもの』達が堪えられるはずがない。それにより『蛇女』は更に強まった恐怖を自覚しながら、『軟体のもの』達が焼き尽くされていくのを見守るのだった。
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