第41話

更に最悪の事態が起きてしまう。奈瑠が『薬師村』に引っ越してきて1ヶ月がようやく経過した頃だったろうか。咲が突然学校を休み始めたのだ。しかも教師は体調不良だと説明したが、実際の理由は違うものらしい。その証拠に咲が休み始めて3日が経過した日の夜の事。奈瑠の所に咲の家にて住み込みで働いているという男女…『江戸』と『彼岸』と名乗る者達が訪ねてきたのだ。更に突然の訪問に固まっている奈瑠に対して『江戸』は告げた。

「咲お嬢様が行方不明になりました。見つけては貰えませんでしょうか?」

「お願い致します。」

「はぁ…?」

頭を下げながら『江戸』に続けて『彼岸』も懇願の言葉を漏らす。だが、そんな2人の姿に対し、奈瑠の口から漏れたのは間の抜けた声だけだった。

 そうして訪問者からの言葉に思わず呆けてしまう奈瑠。それでも2人が止まる様子はない。むしろ奈瑠が固まっている所を畳み掛けるように言葉を続けた。

「咲お嬢様が学校を休まれている事はご存知ですよね?先生方は『体調不良』と言っているそうですが、それはお嬢様の家から指示されたのです。『皆にはそう伝えて欲しい。』と。周囲に行方不明である事を悟らせない為に…。自分達が動揺している事を村人達にも悟らせない為にも。」

「ええ…。ですが、いくら隠していても…いつかは周囲に気付かれてしまう。何より咲お嬢様のおじい様やご両親は表には出しませんが、相当心を痛めていまして…。その痛みを誤魔化す為に日々業務に明け暮れているのです。自分達の体の状態を気にされる様子もなく…。」

「…。」

咲が行方不明になっている事を必死の様子で伝えようとする『江戸』と『彼岸』。その必死さを伝える為だろう。咲がいなくなった時の家族の様子までも語っている。それでも当の奈瑠は2人を見つめるだけ。むしろ話を聞きながら見つめていた事で『2人の正体』を見極められたらしい。徐にこんな事を口にした。

「…あなた達が『どういう方面』から私の事を知ったのか聞かないし、聞こうとも思わない。だけど…あなた達でも探そうと思えば探せるんじゃない?それだけの力はあるでしょう?それに…。」

「…『それに』?」

「それに彼女は私の事を拒絶しているのよ?周りはあまり気付いていないけれど、体から滲み出るほどの邪気をまとわせるぐらいにね。そんな私が探した所で喜ばないと思うわ。」

「それは…。」

周囲とは違い『江戸』と『彼岸』は相手がまとう空気を敏感に察知する事が出来る。当然、咲がまとっていた邪気にも気付き、その原因も薄々悟ってはいた。だからこそ奈瑠の言葉が正論である事も分かっていたのだろう。直前まで見せていた懇願する空気は徐々に解けていってしまう。すると2人の変化に気付いたからか。奈瑠は背を押して追い出してしまう。そして不思議な事に1つ風が吹くと、屋外に出されたはずの2人の姿は完全に消えてしまう。まるで2人自身が風になってしまったように、その気配も完全に消滅するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る