第40話
それから数日の時が経過して。咲は相変わらず奈瑠に対して嫉妬心を抱き続けているのだろう。見つめてくる瞳は妙に冷たく怒りのようなものが宿されている。だが、妙な事に最近は奈瑠に対して以前のような罵声を浴びせてはこない。そればかりか瞳や表情こそ冷たいものの、不思議と落ち着いた様子で過ごしているのだ。その変化は彼女の家族達も当然気が付いたが、以前の様子にほぼ戻ったように感じてしまったのか。安心もしたらしく、結局咲に最近の様子の変化について問いかける事が出来ない。むしろ咲が落ち着いたように見えた事で、再び日々の業務に明け暮れるのだった。
だが、皆は咲に対して色々と問い詰めた方が良かったのかもしれない。というのも、表面上は落ち着きを取り戻しているように見えたが、その内面は黒い感情が渦巻き続けていた。それでも不思議と以前のように内面に溜まるものを吐き出そうとはしない。何故なら最近の咲は言葉を口にする事ではなく、違う方法で苛立ちを解消させる事が出来るようになったのだから…。
「いらっしゃい、咲さん。今日も怒りを解放させたいのかしら?」
「…ええ。お願いしても良いですか?」
家族にも気付かれないまま今日も胸の中に苛立ちを溜め続けていた咲。すると彼女の感情を読み取ったように『ある者』…以前声をかけてきた長い黒髪の女性が姿を現す。その姿は相変わらず怪しい雰囲気を漂わせているが、咲は何度も会っているらしく警戒心も完全に失っているようだ。現に咲は自分の胸の中に溜まる苛立ち等を解放させる事まで依頼してくる。それに対し女性は不敵な笑みを浮かべながら頷くと、徐に咲の胸に触れる。そうすれば何やら術が発動されているのか。咲の胸からは黒い蛇のような『軟体のもの』が生まれてきて、女性はそれを自らの体に取り込んでいく。すると『軟体のもの』は女性にとって自分の力の源のような存在らしい。その証拠に咲の体から伸びた『軟体のもの』を受け取った女性は生気を取り戻し、真っ白だったはずの肌の色も赤みが増していく。そして『軟体のもの』を体から出した咲は力を失いそうなのだが、どうやら出たものは生命力とは少し異なる存在らしい。現に咲の体からは未だに『軟体のもの』が放出されているが、その顔色が悪くなる事はない。そればかりか出たものは咲の精神から形作られたものらしい。放出されればされるほどに咲の表情は穏やかなものに変わっていった。
こうして表情の通り気分も益々穏やかなものになっていく咲。だが、穏やかになっていってしまった事で警戒心も失い過ぎたのかもしれない。というのも、『軟体のもの』を生み出した事で気持ちが晴れた咲は毎回満足げに帰っていくのだが、それを女性は不敵な笑みで見つめ続けていたのだ。まるで獲物を狙う魔物のような瞳で…。
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