第39話
そうして奈瑠に対して『不思議な感情』を抱いている事に宏太は気付き始める。それでも自分が抱くその感情がどういう意味を持つものなのか分かっていないからだろう。宏太は日々首を傾げ考え込みながら過ごしていた。
だが、そんな宏太の姿を咲は複雑な表情で見つめる。というのも、彼女は彼に対して『特別な想い』を抱いていて、その事も自覚しているのだ。当然のように彼の方に視線は向き、その様子の変化にも敏感に気付く。そして気付いてしまった事で咲の胸の中は騒ぎ、同時に芽生えさせてもしまった。自分にとって『大切な人』である宏太が惹かれ始めている奈瑠に対する強い嫉妬心を…。
(許せない…!得体が知れない娘のくせに…周りだけじゃなくって…!彼まで奪おうとするだなんて…!)
もちろん宏太は未だに自分の想いが理解出来ず、奈瑠も彼に対して『そういう想い』を抱いてはいない。だが、村に来てからも行方不明になっていた姉の事を諦めなかった『強い信念』を彼が抱いていた事を知っていたからだろう。その様子を村長の孫娘として見守っていた咲は、やがて彼の真っ直ぐな姿に惹かれるようになった。そして今は告げる事が出来ないものの、村長になった時に彼を独占しようと考えていた。だからこそ咲は許せれなかったのだ。自分の計画を崩すだけでなく、彼を奪う可能性を持つ奈瑠の存在が。その感情は日々咲の中で膨れ上がり、激しい憎悪も育てていく。そして育った憎悪は僅かではあるが、体からも滲み出ていたのだろう。彼女の家族は心配そうにするが、自分達が何かと忙しく鎌っていられなかったからか。結局、様子が変わってしまった理由を咲に問いかける事は出来なかった。
すると咲や家族達のそんな様子を密かに監視していたらしい。『ある者』が咲に近付いてくる。そして咲が気付くと『ある者』はこんな言葉で彼女に囁いた。
「どうやら『強い想い』を持っているみたいね?どうかしら?その『強い想い』を力に変えてみない?」
そう声をかけてきたのは長い黒髪の女性で、咲にとっては見覚えのない人物だった。だが、白い肌と真っ赤な唇は妙な怪しさを示しながらも、それ以上に不思議と惹き付けられてしまったのか。咲は警戒心を徐々に解いていってしまう。それは当然女性にも分かったらしい。その証拠に彼女は口元を緩めながら不敵な笑みを浮かべるのだった。
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