第38話
だが、優子を通じて少しずつ奈瑠と接する事が出来るようになった宏太とは違い、咲は相変わらず敵意のようなものを向けてくる。その様子は当然多くの者達には気付かれないのだが、奈瑠と関わるようになって色々と敏感になってきたからか。何となくではあるが、咲の様子の変化を感じ取る。それでも理由が分からなかったからだろう。優子だけでなく宏太までもが不思議そうにしていた。
一方の奈瑠は咲の目の敵とされている当事者故か。それとも『人と異なる者』である為に、相手から放たれる空気や雰囲気を読み取る力に優れているからか。咲から漂ってくる禍々しい空気を当然のように感じ取る。そればかりか理由についても悟ったらしい。その証拠に未だ不思議そうにしている2人に答えるように口を開いた。
「…嫉妬しているのよ。私がすぐに村人達に受け入れられてしまったから。」
「確かにすぐに受け入れられた気がするけど…。あんなものじゃないのか?俺や優子だってすぐに馴染んだんだし。」
「そうですよ!それと何か違うんですか?」
奈瑠の言葉に更に不思議そうにする宏太と優子。そんな2人を見つめながら奈瑠は改めて説明した。宏太の場合は両親がきっちりと村長に挨拶をし、優子の場合は宏太と両親との『繋がり』がある事で受け入れられた事。そして逆に自分の場合は村長に話をする前に『祖母』が村の土地を治める者に了承を得た為に、自然と村民達に受け入れられた事を…。
「人が土地に与える影響はもちろん強いものよ。だけど…それよりも土地に宿り治める存在の方が強いのよ。時には人の思考も操ってしまうほどに…ね。」
「そう、なのか…。」
「でっ、でも…!私は桂川さんが好きですよ!助けてくれたおかげで宏太達の元に帰る事が出来ましたから…!」
「…ありがとう。」
興味本位で尋ねただけなのだが、その内容が予想以上に自分達の世界とかけ離れていたからか。言葉を詰まらせてしまう宏太。だが、そんな宏太に対し姉である優子は奈瑠に懐いているからだろう。彼と同様に最初は戸惑ったような表情を見せていたものの、すぐに笑顔を取り戻す。そればかりか奈瑠に対する想いを伝えたかったらしく、必死に言葉を口にしてくるのだ。その様子は必死さが伝わり、妙に笑えてくる感覚にもなる。だが、言われた側の奈瑠は優子の必死な想いが一応伝わってきたのだろう。一瞬驚いたような表情も浮かべるが、何だか嬉しくも感じたようだ。その証拠にお礼を告げる声は相変わらず淡々としていたが、表情は穏やかなものになっている。そして奈瑠のその表情は優子を通じて少しずつ交流出来るようになっても、普段ほとんど見かける事が出来ないからだろう。宏太は不思議と目が離せれなくなるのだった。
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