第37話

その後も他の生徒や教師、更には村民達が奈瑠の事を気にかける姿を度々見かける咲。だが、それらの様子を見かける度に当然のように彼女の心情は荒んでいく。特に自分が密かに想っている相手でもある宏太が奈瑠を擁護する側に入っているからか。気分は下降する一方だ。そして荒んだ感情を抱き自覚もしているからだろう。咲はこんな事を思うようになっていた。

(許せない…。急に現れて受け入れられていく彼女が…。全てを奪っていくような彼女が…!)

もちろん抱いたその感情は咲が勝手に思っている事だ。実際の奈瑠は周りが手を伸ばしてきても、自分の事を『人と少し異なる者』と自覚しているからか。決して自らその手を取ろうとはしない。ただ己の望みである『彼女』を探し出す為の力を強化すべく、日々学業の傍らで妖達と関わりながら妖力の修業を続けていくだけだ。だが、そんな奈瑠の状況を全く見ていない咲が、その事に気付くはずもない。持ち前の優雅さで周囲を偽りながら激しい闇の感情を胸の中で育て続ける。それが『闇の存在』を招き後に騒動を引き起こす事も知らずに…。


 そうして咲は奈瑠に対して荒んでいく一方だったが、宏太は真逆の感情を抱いていた。元々、自分の実の姉である優子を『こちら側』に戻してくれただけで、彼女に対して信頼のようなものを抱いている事は自覚していた。だが、それ以上に宏太は思ったのだ。普段冷たく見えても実際の奈瑠は優しい心の持ち主であるという事に。というのも、自分の姉である優子の事を気にかけてくれているらしく、度々家に訪問してくれるのだ。しかも接する時の態度は校内の時とは僅かに違って、心なしか柔らかい雰囲気に変わってもいる。だからこそ宏太は咲のように奈瑠の存在を目の敵にしようとはしない。むしろ自分の姉に優しく接してくれる奈瑠の姿に何だか嬉しくも感じていた。

 一方の優子も自分の事を奈瑠が気にかけてくれる事が嬉しかったらしい。今まで以上に笑顔を見せてくれる時間が増えてくる。そして気分が高潮してきた事で様々な事に興味を抱いたらしい。その証拠に優子は奈瑠を見つめながら色々と尋ねた。『あちら側』の世界の事や、そこの住民の事。人や妖との違いについて等を。それに対し奈瑠は優子をこれ以上『あちら側』に引き込ませたくなかったからか。あまり答えようとはしなかった。だが、結局は優子の真っ直ぐで澄んだ瞳で見つめてきた為、少し絆されてしまったらしい。以前優子に渡した『お守り』に宿る力を強化させつつ、奈瑠は言葉を選びながら少しずつ語るようになる。その事は優子だけでなく宏太も奈瑠に近付けたような感覚になり、嬉しくも感じたらしい。積極的に会話には参加出来なかったものの、温かい眼差しを向けながら耳を傾けていた。

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