(誘い)
第36話
『強い力を持つ者はいないか?…妬みや恨みを含ませた強い力を―。』
山の中にある小さな集落…通称『薬師村』。ここは穏やかで豊かな自然に囲まれた場所だからか。引っ越してきた者達だけでなく、『神隠し』に遭って約10年振りに現れた少女の事も受け入れるほどの心穏やかな人々が住んでいる。そして彼らのおかげで『薬師村』はずっと平穏な日が続いていた。
だが、そんな日々は徐々に変化していく事になる。というのも、村の出入り口付近に何の前触れもなく家が建ったのだ。その事は当然村民達に強い戸惑いを生み、現に彼らの心を動揺に包んでいた。それでも建てられた家が妙に村との空気に馴染んでいたからか。動揺しつつも皆はその事を口に出来なくなってしまう。更には突然建った家には少女が住んでいて、彼女が『村長の孫娘』や『ある村民家族の息子』と同じ学校に通っていた事を知ってしまったからだろう。村民達はより何も言わなくなる。むしろ突然現れた『金髪の女性』と1人の少女を受け入れてしまう。それは少女が通うようになった隣の集落にある中高一貫校も同様らしい。その証拠に愛想が良い訳ではない奈瑠を生徒や教師達は優しく気遣ってくれたのだった。
だが、皆がそうした反応の中でも一部の者は戸惑いを見せる。『神隠し』に遭ったのを救われた『柳生 優子』やその弟である『柳生 宏太』。更には宏太と共に奈瑠の元を訪ね、その不思議な空気を浴びせられた『桜田門 咲』だ。特に咲は幼い頃から『未来の薬師村村長』としての魂を宿し続けているからか。突然引っ越してきた奈瑠や彼女の『祖母』と自ら言い放った『金髪の女性』に対し、強い警戒心を抱く。明らかに『異様な存在』だというのに妙に周囲へ受け入れられているという事が、尚更警戒心や不信感に拍車をかけたようだ。その証拠に転校してきた早々に奈瑠を呼び出すと徐に告げた。
「ここはね、本来は私の家…『桜田門』の人が取り仕切っている場所なの。『何時、誰が引っ越してくるか?』っていうのを把握しているくらい、私の家がまとめている場所なの。それなのにあなた達は何の前触れもなく現れた上に勝手に家も建てられたわ。一体どんな手法を使ったのかしら?というか、目的は何?」
荒んだ感情のままに言葉をぶつけ続ける咲。その様子は強くなり過ぎた警戒心が敵意へと変化してしまったのか。口調は元々の丁寧さを残しているのだが、漂わせる空気は突き刺すように刺々しくなっている。それでも当の奈瑠は『人と異なる存在』とも多く接し、様々な事態に慣れているからか。反抗は示さなかったが、終始冷めた目で咲を見つめる。それにより咲の感情は更に荒んでしまうのだった。
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