第34話
家族の優しさに改めて触れられた事で、ようやく優子がその涙を止める事が出来た頃。空間に開けた穴に入り通り抜けた事で、あっという間に奈瑠は自宅へ戻っていた。その表情は一通りの事をやり遂げられたからか。満足げな表情を浮かべているはずだった。
だが…。
「どうしたんじゃ?奈瑠。随分、疲れた顔をしているようだが。」
「…お祖母ちゃん…。」
「彼女…『柳生優子』だったか?また『神隠し』に遭っていたのを連れ戻させる事が出来たのだろう?しかも彼女が大切にしていた妖も助ける事が出来たようだし…。つまりは全て片付いたって事じゃろ?なら…もっと嬉しそうな顔をすれば良いと思うが?」
「分かっているわよ、そんな事…。だけど…上手く笑えないのよ。その理由ぐらい…あなたでも何となく分かっているでしょう…!?」
「奈瑠…。」
無事に帰還した奈瑠を出迎えたのは、あの『金髪の女性』だった。その姿は奈瑠の口から漏らされた言葉通り『祖母』であるはずなのだが、『人と異なる存在』であるのか。髪は光を放つように黄金色で、肌もきめ細やかで瑞々しい。しかも頭には2つの尖った獣耳が付いていて、『人と異なる者』が理解出来ない大半の者達ならば激しく拒絶してしまうだろう。だが、自分の『祖母』であるからか。奈瑠は当然その姿に気が付いているが、全く拒絶は示していない。そればかりか自分の現状を『祖母』から言われて欲しくなかったらしい。その証拠に苦しげに表情を歪ませていて、『祖母』はそんな奈瑠を見つめていた。
どれぐらいの時間が経過しただろうか。実際に経過していた時間は短いものだったからか。時間の長さよりも乱れた感情の強さのせいか。奈瑠の表情は歪み続けたままだ。すると奈瑠のそんな姿を見つめていた『祖母』は徐に口を開いた。
「ああ…。よく分かっているよ、奈瑠。お前が…彼女を見つけたいと願っている事、それで本来の生活を取り戻したいと思っている事。そして願うだけではなく、その為に己の力を使い熟そうとし続けている事もな。何たって我も同じ想いだからの。」
「だったら…何で…!」
先ほどの自分の心情を理解していないような言葉達が尾を引いているらしい。普段とは違って感情をむき出しながら声を発している。その様子は珍しいものであるが、『祖母』にとっては特に気にはならないらしい。それは『人と異なる者』であるが故に他人の感情に対してあまり興味がないからか。はたまた『祖母』でありながら奈瑠の『母親』のような立場を担い続けている事で慣れているのか。真意は分からない。だが、当の『祖母』はこんな言葉を続けた。
「そうじゃの…。何となく気付いてしまったんじゃ。お前が…彼女の事をとても羨ましそうにしている事にな。」
「っ!それは…!」
「違わないじゃろ?あちらは弟や両親と無事に再会出来た。それも皆に受け入れられたんじゃ。そう思っても仕方がないんじゃないのかの?」
「…っ!だけど…!」
無事に再会していく者達の姿に喜びを感じながらも、それ以上に芽生えていたのは『羨ましい』という感情だった。だが、自分の役割を理解し過ぎているからか。それらの感情を奈瑠は封印していた。それでも『祖母』は止まる気がないようだ。その証拠に『祖母』は奈瑠の頭に手を置くと、封印したものを引きずり出すように続けた。
「…良いんじゃよ、奈瑠。お前は頑張っているんじゃ。泣きたくなったら泣けば良いし、我慢する必要はない。『彼女』のように感情を消そうとしなくても良い。お前はまだ若いし…何より我が傍にいて『彼女』に似て既に強いからな。」
それらの『祖母』の言葉達には、どれほどの感情が込められているか分からない。それでも自分の事を奮い立たせようとしているのが何となくでも感じられたからか。奈瑠は瞳を潤ませながら自分の頭を撫でてくる『祖母』の手の感触に浸る。その温度は『人と異なる者』である為に本来なら体温は低いはずだが、不思議と温かくも感じるものだった。
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