第31話
そうして僅かな時間であったが穏やかな空気に包まれる。だが、その空気に浸り続ける訳にはいかない。奈瑠には少し気がかりな事があったのだから。それは…。
「やっぱり…彼女の事が気になっていたのね?…助けたくなるほどに。」
『…。』
今回の事態の発端について確認するように改めて尋ねる奈瑠。すると彼女の問いかけは『ぬっぺふほふ』にとって的を射ていたらしい。声は出さなかったが正解を表すように僅かに頷く。それに奈瑠は呆れてしまったようだ。その証拠にタメ息を漏らすと言葉を続けた。
「気にするのは勝手だけど…彼女とあなたは別の世界の住民よ?それは分かっているわよね?」
『アア…。』
「しかも彼女は長い間、あなた達の世界に居続けたせいで曖昧な存在にもなっているのよ?それは会えば会うほどに進行してしまうのよ?その事も分かっている?」
『モチロンダ。ダガ…ソレデモ彼女ガ気ニナッテシマウンダ。彼女ハ…自分ノ弟ノ代ワリニ俺ノ傍ニイテクレルグライ優シイ娘ダカラ…。』
「やっぱり…そうだったのね。」
『ぬっぺふほふ』の言葉を聞き、奈瑠は思わず呟く。というのも、宏太からの依頼を受けて優子を探していた時に知ってしまったのだ。彼女の『神隠し』の発端が遊びの延長戦で、『ぬっぺふほふ』の住処だった場所に宏太が入ってしまった事。それを叱る事も兼ねて最初は宏太を『神隠し』に遭わせるつもりだったが、優子が弟を助ける為に代わりを引き受けた事。そして宏太に妙な責任感を負わせたくなかった優子の頼みにより、それらの出来事を彼の記憶から消してしまった事を…。
「確かに…実の弟とはいえ『神隠し』を代わるぐらいに彼女が優しい娘だって事は認めるわ。だからこそ執着してしまう事もね。けど…だからって何度も会いたがるのは駄目だと思うわ。彼女の事を『大切な存在』だと思うのなら尚更。」
『分カッテイル。分カッテハイルンダガ…。』
揺れ動く決意を踏みにじるように淡々と告げる奈瑠。その言葉達は妖でも妙な苦しみや痛みを感じてしまうほどに容赦がない。それでも『ぬっぺふほふ』は反抗せずに受け止めていたのは、奈瑠の口から出た言葉達が正論である事も分かっていたからだ。その心情を表すように『ぬっぺふほふ』は同調の言葉を口にしながら、気まずそうに奈瑠から視線を反らすのだった。
一方の奈瑠は『ぬっぺふほふ』のそんな心情が分かっていたのか。奈瑠は再びタメ息のようなものを漏らす。だが、呆れるだけでなく彼の心情を少しでも晴らしたいと考えていたらしい。というのも、彼に向かって奈瑠はこんな言葉を口にしたのだから…。
「…分かったわ。そんなに彼女の事が気がかりなら行きましょう。」
『エッ?行クッテ…何処ヘ?』
奈瑠の言葉の意味が分からなかったからだろう。思わず不思議そうに尋ねる『ぬっぺふほふ』。すると奈瑠は空間に脱出の為の穴を開けながら言葉を続けた。
「決まっているでしょう?彼女…優子の所よ。最後に今の彼女の状況を見て貰うの。そうすれば諦められると思ってね。…どうかしら?」
『っ!良イノカ…?』
「ええ。これを機会に彼女を諦めてくれるのならね。」
それらの奈瑠の言葉により、彼女の考えがようやく分かったからか。直前まで気まずそうにしていた『ぬっぺふほふ』の気分は浮上していく。そして奈瑠の提案を受け入れる事を頷く事で表すと、彼女が開けた穴へ共に入っていく。本当の彼女の真意に気付かないまま…。
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