第30話
優子と宏太が穴を潜って元の世界に辿り着こうとしていた頃。彼女を何とか逃がす事が出来た『ぬっぺふほふ』だったが、未だ別れた場所から動けずにいた。優子から引き受けた『人型の何か』が体に絡み付き動きを封じていたからだ。それもただ動きを封じられていただけではない。『人型の何か』は体に絡み付きながら『ぬっぺふほふ』の妖力も奪っているらしい。その証拠に自分の体が常以上に動けなくなっている事を『ぬっぺふほふ』は自覚する。だが、自覚するのが遅過ぎたらしく、跳ね除けたりする事は既に出来なくなっている。それにより最終的に『ぬっぺふほふ』は、『人型の何か』に押し潰されるような体勢になってしまうのだった。
だが、彼が妖力の全てを奪われる事はなかった。というのも、突然『人型の何か』が吹き飛ばされたのだ。強い力を持つ者によって…。
『…っ!?コノ力ハ…!』
(アッ…。)
この空間の住民であり『ぬっぺふほふ』から妖力を吸い取っていた事で、直前まで『人型の何か』達は自信のようなものを持っていた。それなのに吹き飛ばされた為に動揺したのだろう。彼らは動揺を強めながら声を上げる。その一方で力を察知した事で正体も分かったからか。『人型の何か』達に比べて動揺は少ないものの、『ぬっぺふほふ』も驚かされてしまう。強い力を持つ者…奈瑠の姿を見た事で…。
「少し暴れ過ぎたようね?…『お仕置き』してあげるわ。」
『ヒッ、ヒイイィッ…!』
自分達とは桁違いの力を前に怯え始める『人型の何か』達。その怯え方は体を震わせるだけでなく、勢いよく『ぬっぺふほふ』の体から離れたり自ら消えようとする者達までいたほどだ。それでも奈瑠が容赦する事はない。取り乱す彼らを見つめながら、その手は火の玉のようなものを生み出していた。
その後、奈瑠の脅しにより『人型の何か』達は慌てて退散。奈瑠は『ぬっぺふほふ』と2人きりになっていた。
「…大丈夫かしら?」
『アア…。君ノオカゲデ助カッタヨ。アリガトウ。』
「別に…。私は頼まれてやっただけだから。気にしなくても良いわ。」
『ソレデモ助ケテクレタノハ君ダ。力モ取リ戻シテクレタシナ。ダカラオ礼ハチャント言イタイ。アリガトウ。』
「律儀な奴ね、あなたって…。」
お礼を告げてくる『ぬっぺふほふ』は少し前と違って覇気が戻っている。というのも、強い妖力で練られた奈瑠の火の玉を見た『人型の何か』達が奪った力を自主的に返してくれたのだ。それは明らかに奈瑠に対して、恐怖以外の何物でもない感情を抱いた事を表してはいる。だが、おかげで『ぬっぺふほふ』は本来の力を取り戻す事が出来たのだ。その事は成り行きとはいえ、奈瑠にとっても優子との約束を果たせれたからだろう。安心したように表情を僅かに緩ませるのだった。
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