第28話
そんな時だった。動けなくなっていく優子の元に別の存在が近付いてくる。それも新たに近付いてくる存在は2つあり、1つは強い何かを漂わせていた。
(…っ!これって…!)
『あちら側』にいた事で感覚が優れるようになった優子は、その正体をすぐに察知。無意識の内に鼓動も速まっていく。というのも、近付いてくる相手は自分を助け出してくれた者達だったのだから…。
「…っ!大丈夫…?」
「姉さん…!」
「桂川さん…。宏太…!」
気配で予想が出来ていたとはいえ、実際にその姿が見られたからか。優子の体からは更に力が抜けていく。それでも2人に心配させたくなかったからだろう。安心させるように自分に呼びかけてくる2人に対し微笑みを向けるのだった。
そこから事態は急速に好転していく。2人に公にはさせていないが、やはり奈瑠は不思議な力を持っているらしい。その証拠に『人型の何か』が優子の動きを妨げていると瞬時に見抜くと、彼女の肩を軽く叩き掃う動作も付け加える。すると奈瑠のその動きに反応したかのように複数の『人型の何か』は徐々に消滅。それと同時に優子は自分の体が軽くなっていくのを感じた。
「…?一体、何を…。」
「…心の隙を狙って引きずり込もうとしていた奴らを祓っただけよ。これで動けるわよね?」
「あっ、はい…。ありがとう…ございます…。」
奈瑠の行動の意味が分からず宏太は尋ねてみたのだが、当の彼女は淡々と答えるだけ。それも明らかに自分とは違う世界を匂わせる内容だったからか。尋ねた張本人であるはずの宏太の思考は追い付かない。だが、奈瑠に不思議な事をされた優子は一緒に住んでいた事も関係しているのだろう。宏太ほどの動揺は見せない。むしろ丁寧にお礼の言葉を口にする。そして動けるようになった事で脱出するべく動こかなければならなかったのだが…。
「あっ、あの…!桂川さんに…お願いがあって…!」
「…お願い?」
すぐに本来の世界へ帰す為、この空間の一部に穴を開けていた奈瑠。だが、そんな動きを邪魔するように『神隠し』の当事者である優子が言葉を発してきたからだろう。思わず奈瑠は少し冷たい声で聞き返してしまう。それでも奈瑠に対し『ある事』を頼もうとしている優子は引かない。むしろ奈瑠を見つめながら言葉を続けた。
「はいっ…!ぬっぺさんを…助けて欲しくて…!」
「ぬっぺさんって…あなたを連れ去った奴でしょう?一応別れられたんだから、気にしない方が良いと思うんだけど…。じゃないと…また『こういう事』になるわよ。」
「そっ、それはそうなんですけど…。でも彼は…!『変なもの』のせいで動けなくなった私を助けてくれた!代わりになってくれた!だから…助けたいんです!お願い…します…!」
「姉さん…。」
奈瑠からの言葉は的を射ている。実際に『神隠し』という現象を作り出したのは直前に別れたあの『ぬっぺふほふ』だ。そんな存在を被害者である優子が助ける事を望むのは『おかしい事』ではあるだろう。それは分かっているつもりだ。だが、それでも望んでしまうのだ。あの『ぬっぺふほふ』の優しさを一番に知っていたのは、被害者でもある優子自身だったのだから…。
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