第27話

一方の優子は自分を助けてくれた者の姿を改めて見つめる。その者は全身肌色をした肉の塊の姿をしていて、独特な匂いと相まって醜く見えてしまう。だが、他人からすれば醜いと感じる容姿や存在であっても、優子にはそう感じなかった。何故なら自分を助けてくれたのは少し前まで自分の傍にいた者…『ぬっぺふほふ』だったのだから…。

「ぬっぺさ…!」

『俺ノ事ハ…気ニシナイデ、優子。君ハ出口ニ向カウンダ。弟ノ元ニ帰ル為ニ…。早ク…!』

自分を助けようとしてくれた者に感謝の想いも込めて、優子は思わず名を口にしようとした。それなのに当の『ぬっぺふほふ』は優子を助ける事しか考えていないのだろう。『人型の何か』に揉みくちゃにされながら、自分から離れる事を促している。その姿に優子は胸が締め付けられるような感覚になるが、彼の行動を無駄にしたくなかったからか。頭を一度だけ下げると、背を向けて走り始める。弟の元に帰る為に…。


 そうして『人型の何か』から抜け出した優子は、来た道を戻るように駆け出す。だが、やはり『あちら側』と『こちら側』を繋ぐ通路のような場所でも、妙な力に包まれている空間なのか。脳裏に大切な弟の声が確かに響いているというのに、周囲の風景に大きな変化はない。相変わらず辺りには黒い霧のようなものが漂い、時々『人と異なる姿』をした者達が通りかかっている。それらは思わず目移りしそうになる光景ばかりだ。それでも優子は感情を押し殺しながら進み続ける。自分を庇ってくれた『ぬっぺふほふ』の想いに答えるように…。

 だが、優子の想いとは裏腹に進む足取りは段々と重くなっていく。というのも、『ぬっぺふほふ』と対峙していなかった一部の『人型の何か』が体に絡み付いているのだ。しかも絡み付いた者は仲間も呼んでいたらしい。気が付いた時には明らかに数を増やし、優子の足取りを更に重くさせようとしていた。

(駄目…!ぬっぺさんが…せっかく残ってくれたの…。私を…戻そうとしてくれたの…。だから…こんな所で…負けたくない…!)

心の中では強くそう思っていても、それを打ち壊すように体の重さは増していく。気分は石が次々と背中に乗っかり、足に瞬間接着剤が垂らされ地面に貼り付いたような感覚だ。そのせいだろう。優子の強い決意は少しずつ揺らぎ始めていた。

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