第26話

だが、宏太の元に戻る事は簡単ではないらしい。何故なら少しずつ距離を取る優子の腕を『人型の何か』が掴んだのだから…。

「やっ…!?」

『酷イジャナイカ。セッカク俺達ガ一緒ニイテヤロウトシテイルノニ…逃ゲルダナンテ…!』

「止めて…!離して…!」

自分の体に縋り付くように密着してくる『人型の何か』。それは空間の力の加護を受けているのか。見た目は優子より頭1つ分小さく紙のように薄い体をしているというのに逃げ出す事が出来ない。いくら腕や足を激しく動かし、もがき続けているというのにだ。それでも脳裏には自分の事を鼓舞するように、『大切な弟』の声が確かに響いていたからだろう。その声に力を感じながら優子は抵抗を続ける。だが、その想いや行動をあざ笑うかのように、優子の体を押さえ付ける力は益々強まっていくのだった。


 それでも優子の強い想いを宿した行動は確かに届いたらしい。その証拠に『人型の何か』とは別の存在が近付いてくる。しかも近付いてくる存在は『特徴的な匂い』を持つ者らしい。それを表すように背を向けていても、近付いてくる者の匂いは分かったらしい。優子は驚きの表情を浮かべた。

(っ!?まさか…!)

『アッ!?誰ダ、貴様ハ…!?』

驚きのあまり優子は抵抗を止めてしまうが、『人型の何か』も同じような状況だったらしい。優子の体からは離れていないが、何処かに引きずり込もうとしていた動きは完全に止まってしまう。そればかりか自分達に近付いてくる者の方へ向くと、厳しい口調で問い詰め始めた。

 だが、近付いてきた者は『人型の何か』の態度にも気にしてはいないらしい。むしろ彼らが捕らえている相手が優子だという事を改めて確認したからだろう。『人型の何か』に向けて答えた。

『俺ハ彼女ノ友ダ。』

『ハァ?友ダト?種族ガ違ウダロウ!』

『ソウダゾ!妖ト人ハ全ク違ウ者同士ダ。友ニナレルハズガナイ!』

優子を永遠に閉じ込め生気を奪い取る事しか考えていなかったからだろう。『人型の何か』達は乱入してきた者の言葉が当然理解出来ず、激しく責め立ててくる。だが、乱入した者は優子を助ける事しか考えていないからか。更に近付きながら答えた。

『確カニ種族ハ違ウ。ダケド俺ハ心優シイ優子ノ事ガ大切ナンダ。ソレダケデ十分ダロウ?』

『っ!?マタ意味ノ分カラナイ事ヲ…!』

『オ前達ガ分カラナクテモ関係ナイ。トニカク…優子ヲ放シテ貰ウゾ?』

『チッ、近付クナ!変ナ臭イガ付クダロウ!?』

淡々と答えながら近付いてくる者に『人型の何か』達は焦り始める。それでも自分達の方が数は多いからか。非難しながらも反撃するべく接近してきた者に群がるのだった。

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