第24話

一方の優子は1人歩き続ける。人の気配が全くない空間だというのにだ。だが、それは仕方がない事なのかもしれない。何故なら歩き続ける彼女は一向に消えない迷いにより、本来の思考も失っていたのだから…。

(私は…ずっと1人だわ。もう戻れない…。)

宏太がいる側の世界に戻ってきたばかりの時には驚きもあったが、宏太に再会出来る事に対する喜びの方が大きかった。それなのに宏太と改めて再会し成長した彼と対面したからか。時の流れの大きさと残酷さを実感してしまったからだろう。優子の胸の中に僅かではあるが、ざわついた『何か』が芽生えてしまう。その芽生えたものの存在に気が付いてしまったからか。『何か』は胸の中で着々と膨らみ、冷静であったはずの思考も奪っていく。そして遂に芽生えた『何か』は力を暴走。『あちら側』への通り道を作ってしまい、優子をそこへ誘っていく。だが、思考を奪われ続けている優子は誘われているという感覚がなかったのか。それとも現実から逃げたくなってしまったのか。その足は自然と怪しげな空気を放っている穴へと向かう。その後奈瑠が変化に気付いたのだが、当然既に穴の中へ入っていた優子が気付くはずがない。むしろ一度も振り返る事なく、穴の奥へと進み続けていた。

 それらの事を思い返しながらも足を進め続ける優子。すると彼女の心に影響されているからか。周囲の光景は益々薄暗いものになっていく。穴に入った時は早朝で、明らかにまだ夜には程遠いというのにだ。しかも優子が歩いている場所は『あちら側』だからだろう。複数の動く気配はするものの、その正体と思われる存在達は獣と人を合わせたような者達ばかり。はっきり言って異形の者達しかいない。だが、『心ここに在らず』の状態であるからなのか。それとも最近まで一緒にいた者が妖と呼ばれる存在で慣れてしまったからか。優子が動揺し足を止める事はない。そればかりか更に奥へと進んでいった。


 だが、優子はどうやら奥に進み過ぎてしまったらしい。というのも、進んでいく内に何処からか声が聞こえてきたのだ。こんな声が…。

『ソウダ…。モットコッチニ進ンデクルンダ。』

(こっち…?)

『アア、コッチダ。楽ニナリタインダロウ?何モ悩マズニ時間モ気ニセズニイタインダロウ?ナラ、コッチニキテ一緒二過ゴソウ。君ガ好キナダケ…永遠ニナ。』

(何も考えなくて良いの…?なら…。)

正常な思考を奪われているからだろう。明らかに人外から発せられている声だというのに、優子はその方向へと進んでいく。そして優子を誘う者か。彼女の前方には全身が闇のように真っ黒な色をしている『人型の何か』が姿を現すのだった。

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