第23話

だが、酷く動揺している宏太の思考は引き戻される事になる。宏太の傍にいる人物…奈瑠の言葉によって…。

「確かに…彼女は迷いがあったわ。『自分が家族の元に戻っても良いのか?』という迷いが。だけど…それは家族の力で何とか出来るものだと私は思う。」

「『家族の力』…。」

「ええ。…といっても、私は似たような立場であって本人達じゃない。これから先の事を最終的に選ぶのは『神隠し』に遭った者とその家族だけよ。だから…あなたはどうしたいの?」

「俺…俺は…。」

思考は未だ追い付いていない部分もあるが、奈瑠の問いかけにより宏太は我に返っていく。それと同時に宏太は既に芽生えていた事を自覚していたのだ。優子を連れて帰り、家族4人で暮らすという強い願望を…。

 そんな宏太の願いは奈瑠に伝わっていたらしい。彼が何かを口にする前に徐に立ち上がる。そればかりか宏太を見つめながら口を開いた。

「あなたの想いはよく分かったわ。だから協力して貰えるかしら?」

「?協力って…?」

奈瑠の言葉に宏太は不思議そうに尋ねる。すると奈瑠は宏太の胸に軽く手を当てながら呟いた。

「『神隠し』に遭った者を『こちら側』に引き戻すには術やお守りだけじゃ足りない。大事なのは強い『想い』なのよ。」

「『想い』…。」

「ええ。相手に対し『こちら側』に帰ってきて欲しいと望む強い『想い』が引き戻す力を生むの。だから…協力してくれるかしら?」

自分だけでは到底見つける事が出来なかった優子に再会出来た。それだけで奈瑠の存在は不思議でありながら大きいものだと気が付いていた。その彼女が自分もいる事で優子を連れ戻せると言ってくれたのだ。それは宏太にとって驚きを強める一方だったが、同時に喜びのようなものも芽生えさせる。だからだろう。宏太は協力の意志を込めて奈瑠に向かって強く頷く。そして当の奈瑠は宏太の反応に安心したのか。僅かに表情を緩ませていた。


 それからの奈瑠の行動は迅速だった。宏太を外に出るように促したかと思うと、何やら地面に円と文字が記された場所まで導く。それだけでなく円の中心まで連れていくと宏太と手を繋いだまま呟き始めた。

「…『我は異界の扉を開く事を望む者。異界の扉を開き柳生優子の元へと向かう事を望む。』」

奈瑠の呟き…呪文に反応したのか。2人の前に突然穴が出現。それと同時に空気も心なしか生温いものへと変化していく。だが、周囲の空気を変化させた張本人であるからか。奈瑠はその変化にも気に留める様子はない。そればかりか続けて言葉を口にした。

「『この者の想いを力に…道を作りたまえ』…!」

宏太と手を繋いだまま呪文を唱える奈瑠。すると正しい呪文だった事を証明するように2人の足元の円…陣から強い光が放たれる。更に宏太の胸元から光で出来た糸のような物も出現。伸びていくと穴の中へと吸い込まれていった。

「この糸を辿っていけば彼女の元へ辿り着けるはずよ。」

「…っ!」

「というわけで行きましょう。」

「はいっ!」

驚くべき光景ばかりが広がり動揺し続ける宏太。それでも奈瑠が口にした言葉は何とか理解出来たらしい。力強く頷いたかと思うと、奈瑠と共に穴の中へ侵入していく。そして穴の中へ消えていく2人の様子を『金髪の女性』は無言で見守り続ける。無表情でありながら2人の無事を願うような瞳で…。

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