第22話
そうして宏太の気分を少しでも上げる事に成功したからだろう。奈瑠は優子を連れ戻すべく、早速行動を起こそうとした。だが…。
「そう簡単には戻れないかもしれないぞ。」
「…えっ?」
「…っ!」
2人だけしかいないはずの空間に突然響いた第三者の声。それにより宏太は戸惑いの声を上げ、奈瑠は思わず息を呑んでしまう。それでも突然聞こえてきた声と同時に姿を現した者の事を奈瑠はやはり知っているからか。動揺を見せたのは一瞬だけで、すぐに常と変わらない無表情になっていく。そればかりか意味深な言葉を口にする者…『金髪の女性』に向かって徐に口を開いた。
「…『簡単に戻せれない』って、どういう事?」
「そのままの意味だ。『あの娘』は『あちら側』の住民に気に入られたし…。何より今回の事態は『あの娘』自身の心が引き起こしたんだ。…それはお前も分かっているだろう?」
「それは…そうだけど…。」
『金髪の女性』が何を言いたいのか、話を聞いている内によく分かってしまったからだろう。真意を問いかけながらも理解した事で、直前まで奈瑠から漂っていた決意を込めた空気は僅かに揺らいでしまう。だが、未だ動揺していた事で理解が追い付いていないからか。宏太には女性が口にした言葉の意味を理解していない。その証拠に女性を見つめながら問いかけた。
「あの…!おっ、俺にも分かるように話してくれませんか?彼女は…優子は俺の姉なんです。連れて帰って…また一緒に住みたいと思っていたんです!だから…どうして今いなくなってしまったのか…俺は知りたい!お願いします!」
「アンタ…。」
必死に自分が抱いていた想いを吐露し、懇願を示すように女性へ向けて頭を下げる宏太。その姿はかなり必死なものに見えたからだろう。奈瑠は見守る事しか出来なかった。
そんな宏太の姿を見て、彼の想いが少しでも伝わったのか。『金髪の女性』は不意にタメ息のようなものを漏らす。当然それだけではなく宏太を見つめたかと思うと徐に口を開いた。
「人間界では…あの娘のように人が消える事をまとめて『神隠し』というのだろう?大半は事故や事件等に巻き込まれて姿を消す事が多いらしいが、例外もある。あの娘のように『あちら側』へ引き込まれる正真正銘の『神隠し』がな。そして正真正銘の『神隠し』に遭った者は一度『あちら側』に受け入れられると引き込まれ易いんだ。」
「『神隠し』…?『あちら側』…?引き込まれ易い…?」
『金髪の女性』は丁寧に説明してはくれたが、宏太にとっては未知の世界過ぎたからか。思考は段々と追い付けなくなっていく。それでも女性が気に留める様子はない。むしろ動揺を強める宏太に対し、こんな言葉を続けた。
「ちなみに引き込まれ易くなる『原因』というのもあるそうだ。」
「原因…?」
「ああ。心の隙だ。」
「っ!」
女性の言葉に宏太は驚いたのか。目を見開き思わず固まってしまう。だが、女性の言葉が止まる事はない。宏太に『原因』というものについて説明したのだ。『迷い』や『苦しみ』といった『負の感情』が『あちら側』の者達に狙われた事を…。
「あの娘がどれだけ『負の感情』を芽生えさせていたのかは分からない。だが、アイツらは僅かなものにも嗅ぎ付けて引き込もうとするんだ。そして…引き込まれる回数や時間が多ければ多いほどに『こちら側』へ戻る事が困難になってくる。つまり魔に近い存在になるんだ。」
「そんな…。」
実の姉である優子が再び『神隠し』に遭っている事にショックを受ける宏太。だが、それ以上に女性の話を理解してしまった事でショックが強くなったらしい。宏太は小さく呟いただけで言葉を続ける事が出来ない。ただ膝の上に手を置き、遠くを見つめ続けるのだった。
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