第20話
だが、宏太の想いを嘲笑うように予想外の事態が起きる。というのも、奈瑠の家へ迎えに行ったのだが、肝心の優子の姿が消えていたのだ。しかも迎えにきた宏太に対し、奈瑠はこんな言葉を口にした。
「悪いけど…『柳生優子』はそちらへは簡単に戻れそうにないわ。…『神隠し』に遭っているから。」
「っ!?それって…どういう事…?」
奈瑠の言葉が理解出来なかったからだろう。宏太は何とか問いかけようとはするものの、その姿は目を見開いて間の抜けた表情が浮かんでいる。それでも宏太の動揺は伝わっていたからか。小さくタメ息のようなものを漏らすと、奈瑠は話し始めた。優子が再び『神隠し』に遭っている経緯を…。
その『出来事』が起きてしまったのは数時間前、今朝の話になる。既に『こちら側』に戻ってきてから約2週間が経過し、その間ずっと奈瑠の家に滞在していたからか。すっかり奈瑠の家での生活に慣れてしまった優子は、自ら家事を行うようになる。それは人に干渉される事にあまり良い気がしない奈瑠にとって好ましくない事態だ。だが、優子が名前の通り優しい心の持ち主だと分かったからだろう。少しずつではあるが優子の行動に抵抗が亡くなっていく。そして今では洗濯や掃除を優子に任せるようになっていた。
だが、一見すると明るい様子で日々過ごす中で、優子の様子が妙なものになっていくのに奈瑠は何となく気が付く。特にこの約1週間の間…宏太と再会してからだろうか。時々遠くを見つめる優子の姿を見かけるようになる。その理由等は問い詰めなかった為、はっきりと突き止める事は出来ない。それでも『神隠し』と関わってきた奈瑠は何となく分かってもいたのだ。優子が自分で『こちら側』に戻る事に抵抗を感じている事。そして周りから受け入れられる事に心配しているという事に…。
更に奈瑠が優子を気にかける事態は続く。様々な不安により心に隙が生まれているのだろう。時々『こちら側』から消えそうな雰囲気を漂わせるようになったのだ。もちろん一度『神隠し』に遭った者は期間が長くなればなるほど『こちら側』への存在が危ぶまれる事は知っていた。だからこそ奈瑠は出来るだけ声をかけていたし、優子の身を少しでも守るべく妖狐の毛を入れた『お守り』も渡していた。だが、その努力も虚しく優子の雰囲気は儚いままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます