第19話
一方の咲は何も助言が出来ていない自分に対して頭を下げる宏太を、ただ無言で見つめる事しか出来ない。それでも感謝の意志を示せれた宏太が立ち去ろうとする姿を見た瞬間、徐に咲は自分の手を伸ばす。そして彼女に腕を掴まれた事で自然と足が止まってしまった宏太に向けて告げた。
「多分…大丈夫ですよ。」
「えっ…?何が…。」
「相手はあなたの両親で…優子さんは柳生君の実のお姉さんなのでしょう?その…血の繋がりっていうのは思った以上に強い力を持っているって、祖父が言っていたの。だから…最初は戸惑う事が多いと思うけど、きっと受け入れて貰えるわ。柳生君の想いを聞いたら尚更。」
「桜田門さん…。」
突然腕を掴まれた事に戸惑ってしまう宏太だったが、咲は離そうとはしない。むしろ掴んだまま言葉を続けてくる。だが、その言葉は自分の事を気遣った内容だと分かったからだろう。宏太の戸惑いは段々と薄まっていく。すると宏太の様子の変化に気付いているのか、いないのか。咲は更に言葉を続けた。
「そっ、それに…!もし一緒に住めなかったら…!私が優子さんと一緒に住みますから!」
「えっ、えっと…?」
「そうすれば…柳生君はいつでも優子さんに会えます!だから…だから辛そうにしないで下さい…。」
「…っ!あっ、ありがとう…ございます。」
自分で何を言っているのか分からなくなってくる咲。それでも自分が抱いていた想いに間違いはないからか。緊張により途切れ途切れな言葉になってしまうが、伝えてくる姿は真っ直ぐと宏太を見つめている。そして宏太の方も人並みな言葉でも、彼女の想いは十分伝わってきたらしい。その証拠に一瞬驚いたように目を見開くが、再び感謝の言葉を口にするのだった。
そうして咲に己の想いを伝えた事で気持ちが落ち着いたからだろう。咲と別れた宏太はそのまま帰宅。両親と再会した。だが、当の両親は家を飛び出してしまった宏太の姿に密かなショックを受けていたのか。帰宅してくれたというのに気まずそうに宏太を見つめてだけ。一向に言葉を発してはこない。すると未だ動揺している両親に対し、宏太は改めて謝罪。それと同時に告げたのだ。家族である優子との同居を望んでいる事を…。
「『家族』…。」
「ああ。だって見た目がおかしくなっても俺の姉さんは『柳生優子』で…!父さんと母さんの娘でもあるんだろ?つまり『家族』なんだ!だから俺は一緒に住みたいし、一緒に住めるとも思っているんだ。…駄目か?」
「宏太…。」
真っ直ぐに自分達を見つめながら告げてくる宏太の姿に、その日の両親は何も言えなくなる。それでも宏太は諦めずに日々伝え続けた。優子を入れて家族4人で暮らしたい事を。そして宏太の必死な言葉は少しずつ両親の心も解していったらしい。優子に会いに行く前日になって、ようやく両親は同居を決意してくれた。それは宏太にとって強い喜びの感情が芽生えている事を自覚したからだろう。翌日優子を迎えにいく事が楽しみになっていた。
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