第17話

すると決意を固めてようやく打ち明ける事が出来た宏太に対し、両親の反応は少し予想外のものだった。それは…。

「10年振りに優子が戻ってきたって…。何を言っているんだい?宏太。そんな訳ないだろう?あんなに多くの人に手伝って貰ったのに見つからなかったんだぞ?有り得ないだろう。」

「そうよ、宏太。あなたは夢を見ていたんじゃない?それか似た人を見たとか…。」

「そんな訳ない!俺はちゃんと昔と変わらない姿の姉さんを見たし、話もしたんだ!あれは間違いなく姉さんだった!」

「昔の姿のままって…。どういう事なの?宏太。」

「…っ!えっ、えっと…。」

両親からの予想外の言葉に対し、反論しようとした宏太。だが、反論する事に必死になるがあまり、まだ告げる事が出来ていなかった優子の現状を口走ってしまう。もちろん優子の現状は伝えなくてはならない事は分かっていたが、自分が考えていたタイミングと違っていたからだろう。宏太は思わず動揺してしまう。それでも母に問われた事で、改めて宏太は言葉を続けたのだ。不思議な場所にいた為に、行方不明になった当時と姿がほとんど変わっていない事を。自然と震えてしまった声で…。

 だが、やはり優子の現状は両親を説得し切ってからの方が良かったのかもしれない。というのも、優子の事を聞いていた両親の表情は、明らかに戸惑いの色を強めていたのだ。更に父は小さくタメ息のようなものを漏らしたかと思うと、宏太を見つめながら告げた。

「なら…尚更一緒には暮らせれないな。」

「っ!?何で…!」

「当然だろう?昔と姿が変わらない娘だなんて…。どう付き合えば良いんだ?周りには何と言えば良い?我が家だけの問題では済まないんだぞ。」

「そうよ、宏太。何より今ようやく村での生活も落ち着いてきたのよ?それを壊すつもりなの?」

「…っ!」

次々と言葉を発し続ける両親の姿に宏太は思わず息を呑む。2人が言っている事が、あながち間違いとも感じなかったからだ。だからこそ宏太は俯き、膝の上で拳を固く握り締める。それでも取り乱した胸の中のものが上手く発散されなかったからか。宏太は勢いよく立ち上がったと思うと、家からも出ていってしまう。その勢いは両親が呆気に取られるほどに凄まじかったのだろう。現に両親は行儀悪く音を立てながら息子が出ていったというのに、それを咎める事も一言も声を発する事も出来ない。ただ無言のまま息子の後ろ姿を見送るのだった。


 そうして逃げるように自宅から飛び出した宏太。だが、衝動的に飛び出してしまったからだろう。10分ほど走った後になって、自宅に戻りにくい状況を自分で作ってしまった事に気付く。そして帰宅しにくい状況を自分で作り出してしまった事、何より直前の自宅での両親のやり取りが脳裏を過っているからか。帰宅する気力は益々失せてしまうのだった。

 すると行く宛もなく村の中を歩き続けていた宏太の前に1人の人物が姿を現した。それは…。

「あれ?柳生君?」

「桜田門さん…。」

同じ村に住むとはいえ、夜に会う事は滅多にないからだろう。互いの顔を見合って思わず固まってしまう宏太と咲。そんな2人を夜特有の静寂とした空気が包み込んでいた。

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