第16話
丁度その頃。1人で奈瑠の家から出てしまった宏太だったが、彼女の術の効果が少しでも残っていたのか。以前訪ねた時よりも時間はかからず、無事に自宅へと辿り着いていた。だが、その事に驚いてはいられないようだ。何故なら宏太の頭の中には、未だに奈瑠の自宅での出来事が過り続けていたのだから…。
(確かに『あの人』は…俺の姉さんだった。だけど…離れ離れになった時と全く変わっていなかった…。)
直前の出来事を脳裏に巡らせながら、そんな感想を抱く宏太。それでも同時に抱いてしまったのは、『あの時』と変わらない姉の姿に戸惑う感情だ。だからこそ自分の姉だと証明も出来たのだが、正直動揺もしてしまった。奈瑠から無事が伝えられた時、姉が今どんな姿をしているのか期待をしていたからだ。姉の無事が確認出来ただけで喜びを抱かれなければならないのに…。
「…んで…喜べ…いんだ…?俺は…!」
嬉しいと感じながらも、素直に受け止め切れなかった宏太。それは彼自身も驚き動揺してしまう事態だ。だからこそ彼は自分を責めるように呟いてしまう。悲痛な声が自宅に小さく響いていた。
それから更に時間は経過して。共働き故に休日でも日々忙しくしている両親が、今日も無事に仕事を終えたのだろう。常と変わらぬ様子で帰宅してくる。それを宏太は何とか動揺を隠しながら常と変わらぬ様子で出迎える。すると既に涙が止まって時間が経過していたおかげか。ただ単に仕事疲れで息子の様子に気付かないほどに疲労しているのか。両親は宏太に対して特に何も言わない。その事に安心する宏太でもあったが、自分の変化に両親が気付いてもくれなかったからだろう。優子と再会した時に芽生えてしまった動揺と相まって、その表情は更に暗くなってしまう。だが、そんな状態に当然両親が気付くはずもなく、時間だけが過ぎていくのだった。
そうして両親が帰宅して、どれだけの時間が流れただろうか。相変わらず両親は息子の変化に気が付いていないらしく、常と変わらぬ様子で夕食を共に摂っている。その光景は日常的なもので、宏太も空腹が満たされていった効果もあるのか。僅かだが体の強張りが解かれていく。そして体の強張りと共に気分も徐々に落ち着いたからだろう。宏太は小さく深呼吸をすると、遂に口を開いた。
「…ねぇ。父さん、母さん。」
「ん?」
「何?宏太。」
不意に自分達に向けて声をかけてくる息子に、両親はこちらを見つめながら返事をしてくれた。だが、その姿は息子が何を言おうとしているのか分かっていないからだろう。不思議そうな表情で見つめてくるだけだ。それは当然の反応なのだろうが、自分を真っ直ぐに見つめてくる2人の姿に、宏太は思わず顔を背けたくなる。それでも優子の事は話さなければならないのだ。改めてそう思った宏太は意を決して両親に話した。優子が約10年振りに無事に見つかった事を。そして無事に見つかった事で改めて自分の気持ちを伝えたのだ。『再び彼女と一緒に暮らしたい』という想いを…。
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