第14話
その不安を抱えながら過ごした3日後。優子が『こちら側』の環境にも慣れてきた事もあり、奈瑠は依頼人である宏太に会わせる事を決意。彼が休みであろう週末に誘い出したのだ。術や心の準備の影響で祖母が使役している鬼に思わず呼び出させた事で、別の問題は起きそうになっていた。それでも準備が整った自分が素早く駆け付けた為、何とか『姉弟が揃って神隠し』という現象は起きずに済んだ。そして少し時間はかかったが、何とか宏太と優子を会わせる事にも成功はしたのだ。
(後は…受け入れて貰えれば良いのだけれど…。)
そう思いつつも自分ではこれ以上何も出来ないと分かっているからか。結局、奈瑠は無言のまま2人の様子を見守る事しか出来なかった。
そんな奈瑠の視線や思考は『あちら側』にいた事で感覚が優れていたのか。優子はどうやら気が付いてしまったらしい。僅かに微笑みを浮かべる。そして今は10年も時の流れが違う場所にいた為に感じさせないが、弟である宏太を見つめながら告げた。
「…ずっとね。違う世界にいたの。」
「違う…世界?」
「ええ。そこは人と違う姿の者達が多くいてね。色々と驚く事ばかりだったわ。」
「怖くは…なかったんですか?」
普通の人間達の大半が受け入れる事の出来ない『あちら側』の話をする優子。当然、妹のようにも感じられてしまう姿の姉と対面している宏太の戸惑いは消えない。むしろ強まってしまったらしく、思わず動揺した声で尋ねてしまう。その動揺の色は声だけではなく、瞳も泳ぐように動かしてしまうほどだった。
だが、動揺する一方の宏太と違い、当事者であるはずの優子は冷静なままだ。そればかりか微笑みを浮かべ続けながら再び口を開いた。
「そうね…。普通は怖いと思うわ。着物を着た鳥や頭に角を生やした人とかいたし…。最初は私も怖かった。だけど…慣れてしまったの。食べ物をくれたり色々な話をしてくれた人が多くて…皆優しかったから。」
「そう…なんですか?」
「ええ。だから心配しなくても大丈夫だよ。」
「…っ!」
見た目が幼いままでも、告げてくる優子の姿は昔の姉のままだ。その事に改めて気付かされたからだろう。宏太は思わず息を呑み、静かに涙を流し始める。その様子を優子は母性に満ちた微笑みで優しく見つめるのだった。
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