第12話
それらの思い出話を聞かされていた奈瑠。だが、聞いていく内に『ぬっぺふほふ』が優子に執着していた事にも気付いてしまう。それなのに彼は優子の帰還を受け入れたのだ。その理由は一向に掴む事が出来ない。だからこそ心意を聞こうかとも考えたのだが、妖が素直に答えてくれるのだろうか。そんな事を今更ながら思ってしまった為に奈瑠は聞く事が出来ない。すると優子との思い出を語る内に感情が高ぶったのだろう。『ぬっぺふほふ』は再び語り始めた。
『本当ハ…ズット一緒ニイテ欲シインダ。ダケド…優子ニハ帰ル場所ガアルンダロ?傍ニイテクレテイル間デモ優子ハ元ノ場所ノ事ヲ考エテイタミタイダシ…。ソレヲ見テヨウヤク気付イタンダ。優子ヲ元ノ場所二帰シテアゲヨウッテ。今マデズット楽シカッタカラネ。』
「そう…。ちなみにアンタはどうするの?彼女が帰った後、一人になるわよ?」
「ぬっぺさん…。」
優子を帰そうと思った理由を聞いて、その心意が何となくでも分かった奈瑠。だが、優子が帰ってしまった後の『ぬっぺふほふ』の事がやはり気になってしまったからだろう。あまり深入りしてはならないと感じながらも、思わずその事を尋ねてしまう。そして奈瑠が抱いた心配のような感情は、一緒に住んでいた事で情が移ってしまったからか。優子自身も気になっていたらしく、切なげな声を上げてしまう。辺りに気まずいような微妙な空気が流れていた。
一方の『ぬっぺふほふ』は、切なげな瞳で自分の事を見る優子を見つめる。そして一瞬の間の後、彼女に向かって言葉を続けた。
『…ソンナ顔シナクテモ大丈夫ダヨ、優子。俺ハ元々1匹デイタカラネ。前ノ状態ニ戻ルダケダ。山ノ奥ニ行ケバ俺ト同ジ種族ノ妖モイルシナ。』
「ぬっぺさん…。」
『ダカラ…アリガトウナ、優子。俺ノ傍ニイテクレテ。オカゲデ仲間ニ会ウ気分ニモナレタ。全部、君ノオカゲダ。』
そう告げたかと思うと、徐に立ち上がる『ぬっぺふほふ』。どうやら告げたい事を言えた為に満足したらしく、山の奥の方へと進み始める。その姿を優子は切なげな表情で少しの間見つめていたが、『ぬっぺふほふ』が本当に立ち去ったのが分かったらしい。結局、奈瑠と共に下山する事にした。『ぬっぺふほふ』特有の匂いに名残惜しさを感じながら…。
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