第11話

そうして術を使った事で村から出たかと思うと、すぐに奈瑠の家がある山へと辿り着く。その事に内心驚く宏太だったが、もうすぐ姉・優子に会える事で気分が妙に高ぶっているからだろう。驚きはかき消されてしまう。そして逸る気持ちを抑えながら奈瑠に連れられ歩き続けていた。

 だが、気分をあまり高潮させない方が良かったのかもしれない。というのも、奈瑠の家にて優子に会う事は出来たのだが…。

「ひっ、久し振りだね?…宏太。」

「姉…さん…?」

約10年振りに会った為に成長した弟の姿に驚いているらしい。優子はぎこちない微笑みを浮かべながら言葉を紡いでいる。それに対し宏太は何とか答えようとしているが、彼もまた戸惑いを含ませた声を発してしまう。何故なら再会した優子は長い月日が経過しているというのに、行方不明となった当時と全く変わらない姿をしていたのだ。その事は彼女と再会する直前までは強い喜びを感じていたはずの宏太でも、大きなショックを受けてしまったようだ。小さく呟いても続きの言葉を口にする事が出来なくなってしまう。そんな2人の様子を見つめながら、奈瑠は優子が戻ってきた時の事を思い出していた。


 優子が『こちら側』に戻ってきたのは3日ほど前の事だった。その1週間前に訪ねてきた宏太からの依頼によって、奈瑠はその日の内に行動を開始。自分の中に流れている血の影響で『人ならず者』とも交流が出来る奈瑠は、彼らから情報を集めていた。すると『こちら側』からすれば10年は長い時でも、やはり『あちら側』では時間の流れが違うからか。『こちら側』で10年経っていても、住民達は色々と語ってくれた。そして彼らを通して得た情報を基に奈瑠は捜索。遂に1匹の妖…『ぬっぺふほふ』の元にいるという情報を掴んだのだ。それは依頼を成功させた喜び以上に、自分と同じような立場の者を救う事が出来た事に安心もしていた。


 だが、喜んでばかりもいられなかった。というのも、優子が発見された『あちら側』は宏太達が生きる『こちら側』とは時の流れが違う場所だ。それにより予想していたのだが、発見された優子の姿は幼いままだった。本来ならば自分達よりも年上で高校生ぐらいにならなければ変だというのにだ。確かに知能の方は元々賢い方らしく、自分の置かれている状況もすぐに把握。『こちら側』に戻ってこれば新たな知識も多く身に着き、その内他の学生達とも変わらなくなるかもしれない。だが、いくら知能は育っても相まってはいない見た目は、他の者からすれば歪と感じられてしまう。だからこそ奈瑠は内心、彼女を『こちら側』に戻す事に抵抗も感じてしまった。

 それでも結局奈瑠は優子を連れて帰る事になった。第1の理由としては優子が弟・宏太の元に帰る事を望んだから。そして第2の理由は優子が『あちら側』に滞在する原因となった妖…『ぬっぺふほふ』が了承したのだ。こんな風に切り出して、思い出話を語った後に…。

『オレ…寂シクテ連レテキタンダ。優子ハ優シイ娘ダッタシナ…。』

不意に呟いた後に、『ぬっぺふほふ』は更に優子との事を語り始める。それによると『ぬっぺふほふ』の中で小心者であった彼は、同じ種族達の間でも浮いた存在だったらしい。常に1匹でいる事が多い者だった。だが、妖で小心者であっても『寂しい』という感情は持ち合わせていたらしく、その感情を晴らそうと彼は模索。当時、彼が住んでいた山の近くで遊ぶ事が多かった優子と宏太を見つけてしまったのだ。そして2人の様子が楽しそうに見えたからだろう。『ぬっぺふほふ』は誘拐を決意。優子が自ら志願してくれた事もあり、彼女だけを連れ去ってしまう。それ以降、『ぬっぺふほふ』は優子と一緒に暮らし続けていたのだそうだ。

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