第9話
だが、その日々も1週間でようやく終わりを迎える事が出来た。というのも、宏太の家に朝から咲の祖父…『村長』が訪問してきたのだ。それも朝からの訪問に戸惑う宏太に対し、こんな事を告げた。
「君にお客さんだよ。」
「えっ…。客って…?」
「ああ、分かりにくかったかい?『桂川 奈瑠』って娘だよ。」
「っ!」
村長の言葉に宏太は思わず目を見開き固まってしまう。すると宏太のその反応に何かを察知したらしい。村長は僅かに笑みを浮かべると、奈瑠が待っているらしい村の出入り口付近まで誘い始める。その誘い方は『何故、村の中に入れないのか?』という疑問が芽生えてもおかしくないほどに強引ではあった。だが、訪問者が奈瑠だと聞き胸の中が更に騒いでいたからだろう。宏太は特に疑問を口にする事なく宏太を連れ出した。
そうして村長に言われるがまま家から出された宏太。だが、連れ出されてすぐに宏太は違和感を覚えた。それは…。
(あれ…?村長って…こんなに足が速かったか?)
常日頃の村長は杖を突きながら重い足取りで歩いていた。その姿は村人達が皆戸惑うほどで、現に彼に歩く負担をかけたくないと感じさせていたからだろう。村に関する会合がある場合は村長の家で行っていたし、外へ出る時には咲やその両親といった家族が付き添っていた。それが今はどうだろうか。彼は1人で訪問してきた上に、杖は突いているが足取りもしっかりとしている。明らかに異常な姿だ。一度そう思ってしまったからか。宏太の中でこの『村長』に対し強い疑念が生まれていく。そして強い疑念は遂に宏太の口から『言葉』という音を生んでしまったらしい。現に自分を村の出入り口付近に誘う『村長』を追いながら気が付くと宏太は口を開いていた。
「今日は…誰も一緒ではないんですね?」
「…何がだい?」
「普段の『村長』なら誰かが傍にいるはずですよね?そうしないと足が上手く動かなくて危ないですから。それに…何となくですが足も速いんですよ。つまり…。」
「つまり…君は私が『村長』ではないと思うんだね?」
自分がずっと抱いていた『疑念』を思わず声に出してしまった宏太。すると宏太の言葉に少なからず『村長』は驚いたらしい。一瞬目を見開き固まってしまう。それでも驚きと同時に見抜く事が出来た宏太の観察眼が面白いとも感じたらしい。その証拠に自分が改めて問いかけた言葉に頷く宏太の様子に口元を緩ませる。その表情は禍々しさも漂わせていた。
そんな『村長』の明らかな変化に気が付いたからか。宏太は体を強張らせる。そして周囲に気付かせるべく大声を出そうとしたのだが…。
(声が…出ない!?)
「おや?どうやら私の術にかかってしまったようですね。声が出なくて可哀想に。しかも体も動けないのですよ?気付きましたか?」
(なっ…!?)
村長の見た目をしながら楽しそうに語る『村長』。しかも言葉だけではなく、実際『何かの力』が働いているらしい。実際『村長』の言う通り声どころか、氷漬けにされたように体も動かす事が出来ない。それらは当然経験した事がないからだろう。頭の中で激しい警鐘が鳴り響く。一方の『村長』は全く動く事が出来ない宏太の姿に満足しているようだ。笑みを更に強めたかと思うと、宏太に向かってこう告げた。
「さぁ…どうしてやりましょうかね?『村長』の偽者と見破ってしまったような奴は…『ご褒美』をあげましょうか?」
(…っ!?止め…!)
口調や言葉は楽しげな色と偽者と気が付く事が出来た宏太に対し、称えるような様子をしている。それでも禍々しいものが消えない、むしろ増している事に気が付いたのだろう。無駄とは分かっていても、宏太は抵抗を態度で示す。だが、当の『村長』は宏太の様子を気に留めてはいないらしい。不敵な笑みを浮かべたまま体に触れようとした。
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