第8話
一方その頃。奈瑠の家を後にした宏太と咲は下山し、ここに来た時と同様の列車に乗車。何とか『薬師村』に辿り着こうとしていた。その道中は奈瑠の家に行き着く時に聞こえてきた『妙な声』がなかったからか。変に迷子になる事はなかった。もっとも『妙な声』については奈瑠に尋ねる事が出来なかったし、確認出来なかった事で『それ』自体も幻聴なのかもしれないのだが…。
「?どうかしたの?柳生君。」
「あっ、いや…。不思議な出来事だったなって思って。ほら、建物も『あんな所』にあったし、出てきた人達も不思議な雰囲気を持っていただろう?その事を思い出していたんです。」
「そう、ですか…。」
「ああ。今度こそ姉さんが見つかってくれると嬉しいんですけどね。だけど彼女が言った通り10年経っているし…。難しいかな。」
「柳生、君…。」
最初は単純に少し前の出来事を宏太は語っていた。だが、それを語る内に奈瑠に言われた事を思い出し、改めて『姉を見つける』という事が非常に困難だと思ったからだろう。語る表情は自然と暗く沈んだものになっていく。そして咲は当然宏太のその様子に気が付いてはいたが、良い言葉が見つからなかったからか。結局、彼の名を1つ呟いただけで黙り込んでしまう。『少しでも元気付けたい』と思うほど彼に対して、強い想いを抱いていたというのに…。
そうして微妙な空気をまとわせながらも2人は無事に『薬師村』へと到着。奈瑠のいた山から村へは結構な距離があったからか。村を出たのはまだ朝日が出て間もない頃だったが、辿り着いた時には周囲が闇色に包まれ始めていた。それでも予定通り1日で帰還出来たからだろう。村人達は小言を言う事なく2人を迎えてくれた。それは奈瑠の話を最初に告げた男性も同様で、同時に自分の話が正しかった事が証明されたからか。安堵の息を漏らし表情も僅かに緩ませながら、他の村人達と共に迎えてくれた。そんな彼らの姿に2人もようやく旅を終えた事を実感したようだ。体を強張らせていた力が抜けていくのを感じていた。だが、そんな中でも宏太は、姉の捜索が成功する事を願っているからだろう。時間が経過すれば経過するほど、その内部は叫び出したくなるぐらい騒がしくなるのだった。
それから更に1週間の時が経過した。最初の3日ほどは奈瑠の方より何らかの連絡があると思っていたからか。宏太は期待と不安を入り混じらせた妙に騒がしい心情で過ごしていた。だが、時間の経過と共に必然的に不安の感情は拡大。息苦しさを感じるようにまでなってしまう。更に時間が経過していく中で、奈瑠に自分の連絡先を伝えていなかった事も思い出してしまう。そして思い出した事で自分の駄目さに気付かされたからだろう。密かに自己嫌悪に浸ってしまった宏太は、無気力の状態で日々を過ごしていた。
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