第7話
だが、奈瑠が依頼を拒絶した事で張り詰めていたはずの空気は、再び壊される事になる。というのも、何処からともなく1人の女性が2人の前に登場。ある意味真逆の反応を示す2人を交互に見たかと思うと、こんな事を口にしたのだから…。
「良いではないか?奈瑠。…2人の依頼を受けても。」
「えっ…?」
「ちょっ…!?何を勝手に…!」
突然横から自分の想いとは真逆の言葉を言われたからだろう。奈瑠は反論しようとする。それでも言い出しっぺである金髪の女性は、そんな奈瑠の反応も特に気にしてはいないらしい。奈瑠を見つめながら言葉を続けた。
「お前と同じような立場の者が救いを求めているのだぞ?助けたくなるのが『人間』というものなのだろう?それに…こういうものを繰り返す事で、また1つ『探し物』に近付けられるかもしれない。そう思えば動きたくなるだろ?」
「っ!それは…!」
「だから…どうだろうか?奈瑠よ。」
「っ!」
急に現れた金髪の女性に今更ながら戸惑いを強める2人だったが、それ以上に彼女の口から出た言葉が自分達を援護するような内容だったからだろう。2人は無言のまま見つめる事しか出来ない。一方の奈瑠も女性が2人の事を援護するのは予想外だったのだろう。僅かに眼光を鋭くさせ、表情も歪ませてしまう。それでも奈瑠にとって女性は逆らう相手ではないらしい。その証拠に苛立ちを含ませた表情を浮かべたのは一瞬の事で、徐にタメ息のようなものを漏らす。そして宏太を見つめながら口を開いた。
「…分かったわよ。アンタからの依頼を受けてあげるわ。」
「えっ…。いっ、良いんですか?」
「まぁ、時間が経過しているから私が探しても見つけられる保証はないけど。その時は…諦める事ね。」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
タメ息を漏らされた後に一応依頼を了承した言葉を口にしてくれたからか。その喜びも相まって宏太は元気良く返事をしてしまう。だが、依頼を受け取ってくれた事の喜びが大きかった為に宏太は気が付かなかった。依頼を了承する言葉を口にする奈瑠の表情が僅かに暗くなっていた事に…。
その後、家から離れる宏太達を見送って。奈瑠は女性と2人きりになる。その事は普段からの光景である為、特に妙と感じさせる光景ではない。だが、奈瑠の方は少し前…宏太達がいた時の事が脳裏を過っているらしい。未だに苦々しい表情を浮かべている。そればかりか女性の方を見つめながら徐に呟いた。
「何で…彼からの依頼を受けさせるように言ったの?」
「…というと?」
「とぼけないで下さい。あの時、あなたが現れて…あんな風に言わなければ…!私は彼からの依頼を受けようとは思わなかったんです!それなのに…!」
「依頼を受け取ったのは自分の方だろう?それを責められてもな…。」
鋭い眼光と共に段々と強くなっていく声に、女性は呆れたように漏らす。それでも奈瑠が取り乱す理由も女性は分かっているのだろう。現に僅かに興奮した様子の奈瑠を見つめたまま、彼女は言葉を続けた。
「彼に向けて言った事は事実だ。現にお前も…彼を見ていて芽生えただろう?『自分と同じ立場の者を助けたい』という想いが。何たってお前は…私の『息子』と『彼女』の娘だ。…心優しい2人のな。」
「…っ!お祖母ちゃん…。」
続けられた言葉に最初は表情を歪ませ続けていた奈瑠。だが、最後の方で告げられた言葉は自分にとって大切な両親の事が告げられたからだろう。刺々しい雰囲気は徐々に溶かされていく。そして両親の顔を思い浮かべる為に瞳を閉じた。
そうして瞳を閉じていた奈瑠だったが、それも僅かな時間だった。すぐに瞼を開くと決意を宿した瞳で女性…自分の祖母を見つめる。すると奈瑠の瞳に力が戻った事に祖母は安心したらしい。僅かに表情を緩ませると不意に尋ねた。
「それで…どう探すのだ?本来は聞き込みをしなければならないが、もう10年ほど経過している。…『人間』に聞いても情報は集まりにくいと思うが…。」
「ええ…。難しいと思うわ。だけど…私には別の方向から探す事が出来る。…そうでしょう?」
祖母の問いかけに答える奈瑠は少し気合いが入っているのか。それを象徴するように不敵な笑みを浮かべる。そして祖母の方も奈瑠の回答に納得しているようだ。彼女の様子を誇らし気な表情で見つめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます