第6話

だが、『謎の少女』からの言葉により妙に張り詰めてしまった空気は、すぐに晴れる事になる。というのも、宏太と行動を共にし続けていた咲が、少女に向かって声を上げたのだから…。

「ちょっと!そういう言い方はないんじゃありません!?確かに勝手に入った私達も悪いのですけど、あなたの態度も十分悪いですわ!」

「桜田門さん…。」

「そもそも『こんな所』に普通は人が住んでいるとは思わない!だから私達は何者かが知りたくて尋ねたの!それなのに…!」

「おっ、落ち着いて下さい…!桜田門さん!」

密かに想っている相手…宏太が責められたからだろう。咲は感情を露わにして『謎の少女』に責め返す。だが、当の宏太は咲のその感情には気付いていない。現に普段とは明らかに違う様子を見せる彼女を少しでも落ち着かせようとするが、声をかける事しか出来ていない。そんな2人の様子により更に周囲が騒がしくなったからだろう。複数の存在が草木の陰からこちらの様子を興味深げに見つめていた。

 一方の少女は2人の様子を無言のまま見つめる。それでも状況を変えようと思ったのだろう。タメ息のようなものを漏らしたかと思うと不意に口を開いた。

「…まぁ、アンタ達が来た事には特に興味はないけど。一応、理由だけは聞いといてあげる。ここに何しにきたのかしら?」

「あっ、はい…。実は人を探していまして…。」

改めて問われた事で答えようとした宏太。だが、そんな彼の思考は何故か既に読まれていたらしい。現に一瞬の間の後、少女の口から予想外の言葉が出てきたのだから…。

「…ちなみにアンタ達が探している人物は目の前にいるわ。」

「っ!それって…!」

「ええ。『桂川 奈瑠(かつらかわ なる)』…。それが私の名前よ。」

「…っ!君が…!」

淡々とした口調で告げられた言葉に2人は思わず固まってしまう。一方の『謎の少女』…『桂川奈瑠』は2人のそんな態度も予想が出来ていたのだろう。特に表情を変えず2人の様子を見つめ続けるのだった。


 その後、動揺が一向に落ち着かない宏太と、睨み続ける咲の様子に痺れを切らしたらしい。一応、2人が辿り着く事が出来た自宅に奈瑠は招き入れる。すると幻覚のように静かに佇み続けていた外観とは違い、室内は家具等が設置されて思った以上に生活感があったからだろう。徐々に緊張は解れていく。そして緊張が解れた事で宏太は自分達が来た経緯を説明。その上で奈瑠に協力を依頼したのだが…。

「お姉さん探しに協力?する訳ないでしょう。」

「えっ、けど…君は人探しとかが出来るんですよね?だったら…!」

「そうよ!それに私達の事が分かっていて、話を聞いて答える気だったから入れてくれたのでしょう!?なら…!」

「確かに私には、ある程度の人探しとか出来ると思うわ。だけど室内に入れたのは、あそこで大騒ぎして欲しくなかったからよ。…あれ以上、『彼ら』に興味持たれても困るから。」

「…っ!そんな…。」

淡い期待を抱いて室内に入った2人だったが、奈瑠から告げられたのは拒絶の言葉だった。当然、宏太は意味深な彼女の最後の言葉を理解出来ないほどにショックを受け、咲の視線はますます鋭くなる。それでも当の奈瑠は気にしていないらしい。2人を見つめたまま、いつの間にか用意していた茶を一口飲むのだった。

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