第3話
咲からの言葉に不思議そうな表情を浮かべながらも、未だ固まり続ける宏太。だが、咲はそんな彼を見つめながら話を続けた。それによると最近村に引っ越してきた人物が住んでいた町の近くにいたのだそうだ。失せ物だけでなく人も探す事が出来て見つけられる人物が…。
「あくまでその人が酒の席で話していただけ。実際はもっと違うかもしれませんし、ただの噂話なのかもしれません。それでも話を聞いてみるだけでも良いかと思うんです。その…色々とあっても今も諦めてはいないのなら尚更…。」
「桜田門さん…。」
咲からの話に最初は強い戸惑いを見せていた宏太。無理もない。姉がいなくなった当初…まだ両親が諦めてなかった時に、彼らは警察だけでなく探偵達にまで頼っていたのだ。だが、金銭を発生させたところで見つかるはずもない。その証拠に両親は生活を切り詰めるほどの依頼料を支払ったが、一向に優子は見つからない。そればかりか気が付けば多額の金銭が発生していた事も発覚。一家はより追い込まれていく。そして親戚からも避けられるようになった一家は心身共に疲労が溜まり、住んでいた場所からも脱出。逃げるように『薬師村』に辿り着いたのだ。それらの日々は『荒れている』という表現が正しいほど慌ただしく大変な日々だった。その出来事は生活がようやく落ち着いてきた今になっても時々『暗い影』を落としている。少なくてもその『暗い影』は10年の時が経過した現在でも、思考を停止しかけてしまうほどのものだった。
「…ん?柳生君?」
「あっ…。」
「だっ、大丈夫ですか?顔色が…あまり良くないみたいですけど…。」
「あぅ、ああ…。大丈夫だ。」
咲の話を発端に忌まわしい記憶が過ってしまったからだろう。宏太の思考は一瞬止まってしまう。それでも咲の呼びかけのおかげで、宏太は何とか我に返る事が出来た。そして我に返った事を表すように宏太が呟くと、咲も少し安心したらしい。僅かに表情を緩ませながら安堵を含ませた息を漏らした。
すると我に返る事が出来たからか。宏太はこんな言葉を口にした。
「ありがとう、桜田門さん。ずっと気を遣ってくれて。」
「いえっ、そんな…!私は村長になるつもりだから、村の事が気になってしまっているだけで…!とっ、特別に柳生君の事を見ていた訳じゃ…!」
「それでも嬉しいです。ありがとうございます。」
改めてお礼を口にする宏太は、自分の感謝の気持ちを強く伝えようとしたからか。咲を見つめながら表情を緩ませる。だが、当然とも言えるそんな宏太の態度に何故か咲は顔を赤らめ、言い訳じみた言葉を口にしていた。
それでも咲のその姿の心情が分からなかったからか。宏太が触れる事はない。むしろ咲を見つめたまま淡々と言葉を続けた。
「…分かりました。一度、その人に会ってみようと思います。」
「えっ…。会っていくんですか?でも本当かどうかは分からないんですよ?そもそも酔っぱらいの言葉だし…。」
「それでもです。せっかく気遣ってくれた桜田門さんに悪いですし…。何より…姉さんの事を諦め切れないですから。」
「っ!そう…。なら、私も協力しますね。」
そう言って『失せ物』や『人探し』が出来る者を知っている人物に会う意志を表した宏太。それに対し咲は安心した表情も浮かべ、協力する旨を伝えてくる。だが、宏太は気が付かなかった。姉・優子の事を未だ諦め切れていない事を口にする宏太を、苦しげな表情で咲が見つめていた事に…。
それから数日後。咲に連れられて『失せ物』や『人探し』が出来る者を知っている人物に会った宏太。その人物は常日頃酒に溺れる事が多いらしいのだが、村長を経由して話が来ていたからか。実際に会うと酒を漂わせてはいない、いわばシラフの状態だった。そして酔ってはいないからか。彼は色々と教えてくれた。自分がかつて住んでいた町の近くにあった山近くに目標の人物が住んでいた事。その人物は周囲とあまり交流を取らないのだが、会った事がある者達いわく『不思議な人』だという事。そして…。
「その人物は女性なんだが、まだ幼いらしい。」
「…幼い?」
「ああ。といっても、君達と同じぐらいの年頃の人物らしいけどな。」
「っ!?」
人探し等が出来る人物が自分達と同世代と知り、驚かされる宏太と咲。だが、彼が嘘を吐いていない事を悟ったからだろう。宏太は噂の人物に会う事を決意するのだった。
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