第14話

だが、コンビニへと向かうと少し予想外の事が起きる。まだバイトが終わらないはずの桃馬が店から出て来てしまったのだ。とっさに隠れようかとも思ったが、そんな場所は何処にもない。結局秋人は、桃馬の目の前にその姿を現す事になる。そして桃馬も予想だにしていなかった秋人の姿に思わずその動きを止めるのだった。

 しばらく2人は互いの顔を見つめ合い無言で固まる。だが、このままではマズイとでも思ったのだろう。桃馬は秋人を見つめたまま、その重い口を開いた。

「…何で…お前がここにいるんだ?」

本人はいつも通りの声で秋人に話しかけたつもりのようだが、秋人はすぐに桃馬の様子が違う事を悟る。何たって、いつも以上に声に覇気がない。それは彼の常日頃の様子からしたら僅かな変化ではあったが、物心ついた頃から姉と一緒にいる桃馬を見てきた秋人にとってはすぐに気付く事が出来た。そしてタメ息をつくと呆れた声で逆に尋ねる。

「…それはこっちの台詞だよ。そういう桃兄こそ、まだバイトの時間じゃないの?」

「そのつもりだったんだけど…何か店長に『帰れ。』って言われた。少し寝不足なだけで…まだいけると思ったんだけど…。」

どうやら本人が気付く前に周りが止めてくれたようだ。いくら責任感が強く真面目な性格とはいえ、止められるまで働こうとするとは…。何となく予想はしていたが、相変わらずだなと秋人は改めて思った。

 再び秋人はタメ息をつくと先ほどの桃馬の質問に答え始める。

「ふーん…。俺は姉ちゃんに頼まれたんだよ。『桃兄を見張れ』って。」

「…?…何で?」

「細かい事は気にしなくて良い。とにかく一緒に帰るよ。」

未だ自覚があまりなさそうな桃馬の姿に更に呆れる秋人。そして、これ以上体調を悪化させない為にも、桃馬の手を引いて歩き始めた。

 体調が良くない事もあってか、桃馬の歩く速度はいつも以上に遅くなっていた。おまけに足にイマイチ力が入らないのか、時々ふらついている。それを成長途中な為、まだ姉よりも身長の低い秋人が何とか支えながら進んでいた。

「…悪い。」

「別に…良いよ。」

ようやく自分の状況を把握した桃馬から謝罪の言葉が漏れる。それに秋人は淡々と答えるが、その心は桃馬が自分の体調に気付く事が出来て安心するのだった。


 こうして何とか桃馬を母子2人で住むアパートに帰す事が出来た秋人。すると、桃馬は余程体調が悪いのだろう。室内に上がると真っ先に自分の部屋へと向かった。

「…今日、叔母さんはいつ帰って来るの?」

「分からん…。ただ…ずっと…残業してるから…。」

桃馬の母について尋ねた秋人だったが、そこまで答えた所で途端に声が止まる。どうやら本格的に眠りに落ちてしまったようだ。その顔色を見て秋人は改めてタメ息をつく。そしてズボンのポケットから携帯を取り出すと何やら操作するのだった。

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