第15話
どれぐらい眠りに落ちていただろうか。ふと桃馬は何者かの気配を感じ取り目を開ける。すると、額に何やら冷たい物が乗せられている事に気が付いた。
(…いつの間に…?)
未だ意識は曖昧ではあるが、桃馬は何とか眠る直前の記憶を呼び起こす。確かにバイト先の店長から早退させられて秋人とは会った気もするが、イマイチ記憶が定かではない。それだけ自分は体調が悪かったのだろう。だが、そう認識してしまうと同時に自分が情けなく感じ、別の意味で沈んでいった。
思わずタメ息を漏らす桃馬。すると、それに気が付いたように誰かが部屋に入ってきた。
「お?気が付いたみたいだな!」
「夏妃…?」
完全に意識を失う直前までは秋人がいたはずだ。それが何故か今は夏妃がいる。未だまともに頭が働かない桃馬がそんな事を考えていると、徐に夏妃は口を開いた。
「秋人から連絡が来たんだ。『叔母さんがいないのに桃馬を1人で寝かせてるから様子を見てあげて。』ってな。だから見舞いに来たんだ。」
「そうか…。」
相変わらずの明るい口調で答える夏妃の姿に桃馬は少しだけ笑顔を見せる。一方の夏妃はというと、眠っていたおかげで顔色が少しだけ戻った姿を見て安心するが、それ以上に倒れてしまった桃馬を見て何だか胸の中が騒ぐ。それでも自分の気持ちを未だに理解出来ていない夏妃はそれを無視して桃馬に声をかけた。
「…しっかりしろよ。もう僕達も高校生なんだし…。体調管理ぐらいはしないとな。」
「ああ…。そうだな。」
思わず口から出たのは皮肉が混ざったような言葉だったが、桃馬は微笑みを崩さなかった。その姿に夏妃は何故か胸の中が高ぶり頭の中が混乱する。そして思わず部屋から飛び出そうとするが、そんな夏妃の心境に先手を打つように桃馬は呟く。
「悪い…。少しだけ…手を握ってくれるか…?」
「あっ、ああ…。」
その言葉に夏妃は布団からはみ出した右手を握る。すると、それに安心したのか桃馬は再び眠りについた。
眠りにつく桃馬に夏妃は再び安心する。だが、何となくその顔を覗き込んだ時に胸の中が再び跳ねる。体調を崩しているから常と違うように感じるのだろうが、何故か今の桃馬の姿を見ている内に激しく動機がしたのだ。
(何でだ…?僕も…桃馬の病気が移ったのか?それとも…違う理由か?)
頭にまで鳴り響くその音を聞きながら夏妃は必死に思考を巡らせる。だが、いくら考え込んでもその答えは結局見つけられない。そして夏妃は桃馬の手を握ったまま動けなかった。
その時だった。夏妃と桃馬がいる寝室の扉が突然開けられる。それに気が付いた夏妃が振り返ると、そこには秋人がいてこちらを見つめていた。
「…桃兄って起きたの?」
「あっ、ああ…。一度は目を覚ましたんだが、また眠ったみたいだ。」
声をかけられようやく我に返った夏妃は桃馬の容体を伝える。それを聞いていた秋人だったが、ふとある事に気が付いた。
「顔が少し赤いけど…。何かあったの?」
「っ!べ、別に!何にもないぞ!?あっ!もしかしたら、桃馬の風邪が移ったのかも!」
「…桃兄は確かに微熱っぽかったけど、ただの疲労でしょ?移るモノじゃないと思うけど…。」
「そっ、そうだな…。」
冷静な秋人に対し、夏妃は誤魔化すように答える。その姿に秋人は不思議に思うも、先ほどの様子を思い出して何かを察知する。それでも恐らく理解していないであろう本人の姿を見てタメ息をついた。
「いい加減…鈍感な姉の弟をやりたくないんだけど…。」
「!?どういう意味だよ!?」
「…別に。」
意味はよく分からなくても馬鹿にされたのは何となく分かったらしい。さすがといえば、さすがではある。そんな事を思いながら秋人は不満気な姉を見つめるのだった。
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