第12話

翌日。いつものように登校した桃馬だったが、席に着いて早々に撫子に捕まってしまう。

「昨日の事を覚えてますわよね?早速、手伝って頂きたいですわ。」

そう言うと撫子は桃馬の手を掴み教室を出る。そして指示をしながら生徒会室へと向かう。その様子は一見すると仲睦まじく見せていて、言葉にしなくても『彼は私の物よ。』という雰囲気を醸し出す。それも相まって他の生徒達は2人から距離を置くのだった。

 こうして撫子は桃馬の元から離れようとせず常に一緒にいるようになった。朝は学校に着いた時から出迎えられ、帰りはバイトが入っている時以外は夕方まで離れようとはしなかった。もちろんその理由は仕事を依頼されていた為だったのだが、それ以外の理由が込められている事にも桃馬は気が付いていた。だが、元々口下手であった事もあり上手く抜け出す事が出来ない。結局、桃馬は撫子に命じられるがまま動き続けるのだった。


 そんな桃馬の変化に友人である真理は当然気が付いていた。そして日々撫子の為に走り回っている桃馬の姿を見て思わずタメ息をつく。

「まったく…。アイツは何をしているのかしら…。そう思わない?」

呆れた表情で真理は呟く。一方、その言葉を聞いていた夏妃は首を傾げた。

「別に良いんじゃないか?桃馬も文句を言わずに手伝っているみたいだし。」

「それはそうだけど…。っていうか、アンタは嫌じゃないの?あんなに会長が纏わり付いていて…。」

「ん~?何か違和感はある気がするけど、特にきにならないかな?まぁ、一緒に帰れなくなったのは寂しい気がするけどな!」

常と変わらぬ笑顔を向けられ真理は思わず言葉を失う。相変わらず自分の言葉の意味を理解していない様子の夏妃を見て、少しだけ桃馬の事が不憫に思えた。

 再び呆れたようにタメ息をつく真理。だが、そんな真理の傍らで夏妃は予想外の言葉を口にする。

「あっ、でも…。アイツの体は心配だな…。」

「えっ…?」

「だって、アイツってバイトは相変わらず続けてるみたいだからさ。体は丈夫な方だとは思うけど、僕みたいに『元気の塊』じゃないからさ。」

先ほどまでとは違い、そう呟く夏妃の表情は僅かに沈んでいる。その姿は一瞬のものだったが、何かと夏妃の事を応援したい真理にとっては何だか嬉しくなる。だが…。

(早く色々と…気付いてくれると良いのだけれど…。)

ふと真理の胸の中に嘆きにも近い言葉が湧くが、結局それが声となる事はなかった。


 こうして桃馬の無事を様々な意味で願う2人にとって、何だか不安な日々が続く。だが、その2人の願いも虚しくある出来事が起きてしまうのだった。

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