第9話

こうして迎えたお昼休み。相変わらず女子から弁当を押し付けられてしまった桃馬は夏妃と真理のクラスへとやって来た。だが、そこにはいつも弁当を欲しがる夏妃の姿はなく、真理が1人で弁当を食べているだけだった。

「あれ…?夏妃は?」

「夏妃なら…生徒会長様に呼び出されているわ。」

不思議そうに尋ねる桃馬に対し真理は淡々と答える。その口調は一見するといつもと変わらないが、幼馴染みである桃馬には真理が怒っている事が分かった。思わず桃馬はその様子に一歩後退りすると、真理はタメ息をつき口を開く。

「まったく…!夏妃を呼び出しても意味はないのに…。」

「お前…アイツが何で呼び出されたのか分かるのか?」

夏妃が呼び出された理由を知っているらしき真理の発言に桃馬はつい問いかけてしまう。すると真理は呆れたように再びタメ息をつき冷ややかな目で答えた。

「分かるも何も…アンタの事で呼び出されたのでしょう。あの子は…夏妃はアンタと仲が良いから。」

「まぁ…。でも『仲が良い』だけならお前を呼び出しても良かったんじゃ…。」

「私は生徒会長の『ライバル』じゃないわ。」

夏妃が呼び出された理由を聞いたが、真理の口から出たのはよく分からない内容だった。結局桃馬は、不思議に思いながらも真理の隣に腰かけ弁当を広げ始める。その様子を真理は冷めた目で見つめながら、おかずであるミニハンバーグを口の中に入れるのだった。


 一方の夏妃はというと、撫子の呼び出し通り生徒会室前に来ていた。

(生徒会室なんて…初めてだな…。)

女子らしくなくても問題を起こした事がなかった夏妃にとっては、職員室に呼び出された事はない。そして生徒会役員にもなった事がなかった為、当然生徒会室に来る事は初めてだ。よって初めての体験をした夏妃は瞳を輝かせながら撫子が来るのを待つのだった。

 だが、撫子と合流出来たのも束の間、夏妃の気分は一気に下がってしまう。というのも、再会した撫子からこんな事を言われてしまったからだ。

「五十嵐さん。あなた…雲野君の事をどう思っているのかしら?」

一瞬、撫子が何を言っているのかよく分からず夏妃は首を傾げる。それでも撫子の様子を見ている内に夏妃の脳裏に昨日の真理の言葉が巡る。そして小さく息を吐くと呆れたように言う。

「桃馬とはただの幼馴染みだ。大体、何でその事を僕に尋ねるのさ?」

「そんなの…あなたが私の宿敵(ライバル)だからに決まっていますわ!」

タメ息交じりの言葉にも撫子は強く反論する。だが夏妃からすれば、ハッキリ言って勘違いしているだけだと思ってしまう。そもそも自分は桃馬をそういう風に見た事もないし、その話題にもあまり興味がないのだから。

「ライバルって…。大体、僕は桃馬と子供の頃から一緒にいるけど、そんな風に見た事はないぞ?桃馬自身も僕の事をおういう風に見ていないと思うし…。」

自分なりに正直な事を口にしたのだが、撫子は納得しなかったらしく冷たい瞳で睨む。結局夏妃には、そんな撫子から逃れるべく走ってその場から去るしか道はなかったのだった。

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