第8話
そんな桃馬の様子を廊下から1人の人物が見つめていた。それは生徒会長でありお嬢様の撫子だった。だが、2人を見つめるその姿は普段の優雅さとは違い力強く見つめている。そして唇を噛みしめると何処かへと向かって行った。
一方、桃馬の隣の教室では夏妃が机に突っ伏して頭を抱えていた。というのも、直前の授業が大の苦手な数学だったからだ。ただでさえ真理が妙な事を言ったせいで思考が変にまとまらないというのに、そこに苦手な数学が乗ってきたのだ。おまけに先生に当てられた上に答えられず課題まで出されてしまった。
「あ~!何で今日はこうなんだ!?」
頭が痛くなる事が重なり夏妃は思わず悶える。それでも課題だけはこなさなければならない。その為、夏妃は真理に手伝って貰おうと思ったが、ふとある事に気が付いた。
(そういえば…真理は何処に行ったんだ…?)
どうやら自分が燃え尽きる間に席を離れたのだろう。自分の周りも当然だが、真理の席である夏妃の斜め前の場所にもその姿はない。それでも『休憩が終わる前には戻って来るだろう』と思い、次の授業の準備をしながら待つのだった。
すると、そんな夏妃の元に別のクラスメイトが近付く。そして未だ浮かない表情の夏妃に声をかけてくる。
「五十嵐さん!呼んでますよ!」
「…誰が?」
クラスメイトの言葉に夏妃はようやく顔を上げるが、その表情と声はいつもより力がない。だが、クラスメイトがそれを気にかける余裕はない。何故なら…。
「誰がって…生徒会長ですよ!生徒会長の…五月晴さんです!」
必死に説明するクラスメイトが指し示す方向に夏妃は視線を向ける。確かに教室の出入り口にはこちらの様子を伺う見覚えのある少女の姿があった。だが、その彼女から放たれる気が自分と正反対である事を感じ取り、夏妃は応じるのをためらう。それでも周りから痛いほどの視線を浴びせられ、仕方なく夏妃は立ち上がった。
「…僕に何か用なのか?」
出入り口まで近付いた夏妃はいつもの口調で問いかける。それに周りのクラスメイトは固まってしまうが、夏妃はあまり気にしない事にした。一方言われた撫子は、周りとは明らかに違うその態度に驚くが笑顔で答える。
「ええ…。少し五十嵐さんにお話があって…。お昼休みに生徒会室に来てくれるかしら?」
「…?別に構わないが…?」
敬意をあまり示す性格ではないみたいだが、呼び出しには意外にも素直に答えてくれた夏妃の姿に撫子は自然と笑みを浮かべる。そして優雅な足取りで自分の教室に戻っていく撫子の後姿を夏妃は不思議そうに見つめるのだった。
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