(第2話)

第7話

翌朝。朝日が降り注ぐ中を各家庭の住民達は忙しそうに支度を済ましていく。それは夏妃の住む五十嵐家でも例外ではなく、親子は騒がしく動き回っていた。だが…。

「う~ん…。」

動き回る家族を尻目にリビングの椅子に腰かけた夏妃は腕を組み唸り声を上げる。とっくに朝食を終えている為、普段だったら慌てて登校の準備をしていたはずだ。それなのに今朝は何やら考え込んでいて動こうとしない。一体、何があったというのか…。

「どうした?夏姉。…ヤバい物でも食ったか?」

急に声をかけられ夏妃は顔を上げる。そこには予想通り4歳年下の弟…秋人が見つめていた。

「ヤバい物って…。僕はまだ朝食しか食べてないぞ?」

「いや。夏姉だったら拾い食いしそうだし…。何より朝から考え込むなんて、何か起きるんじゃないかと思ってな!」

「…失礼な弟だな。」

やや悪い笑みを浮かべる秋人に夏妃の中で怒りが込み上げる。そして、それを表すかのように両手を組み合い関節を鳴らす。だが、制裁を加えようとしたその行為を1人の人物が止めた。

「でも…本当に大丈夫?夏姉…。体の調子悪いの?」

「春穂…。」

制裁を加えようとした手を止めてくれたのは8歳年下の妹…春穂だった。夏妃とは違い女の子らしい春穂は、その愛らしい表情で見つめてくる。それを見た夏妃は優しく抱き締めると頭を撫でた。

「やっぱり春は優しいなぁ~。誰かとは大違い…。」

「おい!」

妹に優しく声をかけながら自分の事を冷たく言う姉の姿に秋人はツッコむ。一方の春穂はというと、いつもの様子に戻りつつある姉に少しだけ安心したが、まだ僅かに心配が残っているらしく尋ねる。

「でも…本当に大丈夫?何かあったの?」

「うん?大した事じゃないんだけどな。昨日の帰り真理が変な事言うから…。」

そこまで言ったが、夏妃はそれ以上は言わなかった。何故なら仕事に出掛けようとする両親が声をかけてきたからだ。結局、そんな両親を見送った後に夏妃も出かける時間となり、朝の慌ただしい時間は終了したのだった。


 両親を見送った後、それに続くように夏妃も家から飛び出す。やはり窓から見た通り天気は良さそうだ。柔らかい朝日を浴び広がる青空を眺めていると夏妃の気持ちも盛り上がる。おかげで昨日真理が漏らした『桃馬がモテる』という話は抜け落ちていた。

 だが学校に到着し桃馬の顔を見た瞬間、真理の言葉が脳内に再生される。

(本当に桃馬って…モテるのか…?)

ふと沸き起こった疑問により夏妃の視線は自然と桃馬に釘付けになる。だが、クラスが違う事もあって見つめる時間は短く他のクラスメイトは気付く事はなかった。

 だが…。

「…何か夏妃に…すごく見られてるんだが…。」

見つめられていた張本人である桃馬は既に気付いており戸惑いながら口を開く。一方、その報告を受けた真理も、親友だからか気が付いていた。もちろん、自分が昨日言った事が理由ではないかという事も何となく理解はしていた。だが、常日頃からある事を思っていた真理はあえて昨日のやり取りを隠して口を開いた。

「…良いんじゃない?夏妃に見つめられて悪い気はしないでしょう?」

「そりゃ…!?…って、そういう問題じゃなくてだな…!」

真理の言葉の意味している事を悟った桃馬の顔は一瞬赤くなる。その顔は普段あまり感情を表に出さない桃馬にとっては珍しく他の女子達は気にする。だが、女子達が苦手な真理がいた為、皆は近付けず見守る事しか出来なかった。

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