第5話
ようやく校舎が見えなくなって。辺りの風景は店や公園などの街らしい風景に変わっていく。あと少しで家に辿り着ける事もあって、夏妃は若干鼻歌を混じらせながら真理と共に歩いていた。
すると、そんな夏妃を見ながら真理はふと思い出したように尋ねる。
「そういえば…桃馬は一緒じゃなかったのね。」
幼馴染みの3人はよく一緒に登下校をしていた。だが、ここ最近は時々行動出来なくなっている。…まぁ、辛辣でありながら周りの観察眼に優れていた真理にとっては大体予想が付くのだが。
だが、納得し始める真理に対し、夏妃は予想に反した言葉を発する。
「ああ…。何か生徒会長に呼び出されたみたいだよ。よく分かんないけど。」
素行が悪い訳ではないはずの桃馬が呼び出しを受けた事に夏妃は不思議そうだ。その様子に真理は自然とタメ息を漏らすと自分の考えを伝える。
「よく分かんないって…。告白でもされてるんじゃない?桃馬は相変わらずモテるみたいだから。」
呆れたように言う真理だったが、夏妃は不思議そうに首を傾げる。というのも、未だに『恋愛模様』というのがよく分からない夏妃にとっては『モテる』というのがハッキリ言って未知の領域なのだ。その為、女子達にそういった話題を振られた時も、『慣れない事だし、雰囲気的にも何か苦手』と感じていて話題を上手く避けて貰っていた。
だが何故か今、話題を避ける手伝いをしてくれたはずの真理からその話題が出てくる。ましてや幼馴染みで幼稚園の時からの付き合いがある桃馬がモテるという話だ。混乱してしまった夏妃は思わず眉間に皺を寄せ考え込み始める。すると、そんな夏妃に真理は小さく笑みを浮かべると口を開いた。
「もしかして…気付いてなかったの?」
「えっ…。っていうか、気付くも何も…桃馬って人気あるのか?」
本当に何も知らなかったらしく夏妃は不思議そうに尋ねる。その姿に『ここまで気付かないものなのね…。』と思わず感心してしまう。と同時に、これを機会に少しだけ自覚を芽生えさせようと口を開いた。
「桃馬はモテるわよ。だから今日もお弁当を貰っていたでしょう?」
「え…?あれって、そういう意味だったのか?でも桃馬はあまり食べるタイプじゃないんだけど…。」
「まぁね。でも、それを知ってるのは私達ぐらいだし…。多分あの子達は詳しく知らなくて、弁当も桃馬が食べてると思ってるんじゃないかしら?桃馬自身も…なかなか言うタイプじゃないしね。」
そう言いながら真理は更に続ける。
「それに他の女子だけでなく、桃馬を呼び出した生徒会長の『五月晴撫子』も好きみたいだし…。」
「そうなんだ!…っていうか、生徒会長の『五月晴撫子』って…どんな奴だっけ?」
「『五月晴グループ』の社長の娘で会長の孫よ。…って、生徒会長の事ぐらい覚えておきなさい。」
それほど興味のない事とはいえ、あまりにも無知過ぎる親友に真理は背中を叩く。というのも、撫子には取り巻きが多く、教師までも一目置く存在だ。そんな彼女の事をもし『知らない』と言ってしまったら、どんな目に遭わされるか分からないのだ。急に背中を叩かれた事に夏妃は一瞬驚いたようだが、彼女や彼女の取り巻きからの制裁に比べたら可愛いものだと思う事にし歩き続ける。その背後を夏妃は首を傾げたまま追いかけていった。
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