第3話

色めき立つ女子達が離れて夏妃の周りはようやく落ち着きを取り戻す。その事に安心した夏妃は小さく息を漏らすと真理に向かって口を開く。

「ありがとうな、真理。おかげで助かったよ。」

思わず笑顔を浮かべながら夏妃はお礼を言う。だが、お礼を言われている真理は相変わらずの口調で返す。

「良いわよ。私は事実しか言ってないし。それに…あそこまで言わないと、あの子達は引き下がらないし。」

「まっ、まぁな…。」

幼い頃からずっと変わらない辛辣とした態度に夏妃は苦笑いする。『男の子にモテる子じゃない』と言われる事は普通の女子だったらかなりショックな言葉だろう。だが、別にモテたいとは思わない夏妃にとっては何て事ない言葉だ。それよりも『真理の性格を恐れてまた皆が離れてしまうのではないか?』という事の方が夏妃にとっては気掛かりだった。

 そんな事を改めて思いながら夏妃は見つめる。すると、それに気が付いた真理が眉間に皺を寄せながら尋ねる。

「…何よ?人の顔を見て。」

「いっ、いや…!何でもない!ただ…あまり強い事言うと…真理の周りに人がいなくなりそうで心配っていうか…。」

「余計なお世話よ。私は気にしないし。それに…。」

そこまで言うと真理の言葉が急に途切れる。そして変わらず自分を見つめている夏妃の額を指で軽く弾くと背を向け小さく呟く。

「友達は…アンタがいれば良いわ。」

「…?何か言ったか?」

小さく呟かれた言葉は他の学生がいる空間では聞こえなかったようだ。だが、真理は言い直す事はせず自分の席へと戻る。そして夏妃も不思議そうにしながら授業の準備の為に教科書とノートを出した。


 ようやく苦手な普通教科の授業も終わり夏妃はタメ息をつく。元々、体を動かす事が好きだった夏妃は体育が得意。だが、椅子に座ったまま教科書を広げて受けなければならない普通の教科の授業は苦手だった。特に頭をフル活動しなければならない数学と科学は大の苦手で、この2つの授業が始まると精神力は一気にすり減る。だが、そんな夏妃をあざ笑うかように今日は2教科が続く日だった。おかげで夏妃の精神力は削り取られてしまったのだ。

 そんな地獄から解放された夏妃は鞄から包みを出す。それはしっかり者の弟・秋人と妹・春穂が作った特製弁当で、夏妃にとってはエネルギーの源でもある。早速、夏妃は包みを開けると弁当を広げ始める。すると、それを見計らったように真理が隣へ腰かけた。

「相変わらず姉に似ないで…秋と春は料理上手みたいね。」

「そうだろう!?良かったら真理も食べる?」

笑顔で頬張りながら弁当箱を差し出す夏妃。その姿は幸せそうで、冷たい印象を持たれ易い真理も思わず微笑む。そして差し出された弁当箱から黄色く輝いた卵焼きを1切れ取り口に運んだ。

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