(第1話)

第2話

小さい頃から『女の子』としているのが苦手だった。そんな事を気にするより普通に皆と遊ぶ方が好きだった。だからこそ気付かなかったんだ。自分の想いに―。




 きっかけは高校2年生の時だった。いつものように五十嵐夏妃は学校で女子生徒達の会話に耳を傾ける。そして適当に相槌を打ちながらペットボトルの飲み物に口を付ける。というのも、今女子達の話題に付いて行けなくなっていたのだ。何故なら夏妃が苦手としている『恋の話題』が繰り広げられていたからだ。

「私、隣のクラスの人が好きなんだ~!」

「へぇ~!私は1つ上の先輩が好きだな!」

思春期らしい会話の花を咲かせる女子達。だが、夏妃はその輪に入ろうとはせず飲み物を口にしたまま無言で聞き続ける。『僕には縁のない話だな。』と思いながら。


 そうして飲み続ける事しばし。ようやく喉が潤った事に満足した夏妃は、この慣れない雰囲気から立ち去るべく離れようとする。だが、そんな夏妃の心境を読み取るかのように無情な問いかけが投げかけられた。

「…それで、五十嵐さんは好きな人いないの?」

当たっては欲しくなかったが、やはり予想通りの言葉で問いかけられてしまった。運動神経が良いはずの夏妃も思わず体をよろめかせる。それでも妙に期待した眼差しを向けてくる女子達を避ける事は出来ずタメ息交じりで答えた。

「いないよ。僕に好きな人なんて…。」

「え~?でも五十嵐さんって結構モテるんでしょう?知ってますよ!」

「…。」

『モテるのと好きな人がいるというのは意味が分違う』という事を経験がないながらも夏妃は理解していた。そもそも自分がモテるだなんて思わないし、よく分からない。あえて言うなら友達が多いだけだと思う。

(その辺の事を…何と言えば良いかしら…?)

思わず女子達の言葉に夏妃はタメ息をつくとしばし考え込む。だが、元々考える事が苦手な夏妃は上手く言葉をまとめる事が出来ず結局黙り込んでしまうのだった。


すると、そんな夏妃の想いを察するかのように声が背後から響いた。

「モテるって言っても…この子の場合は女子からでしょ?」

馴染みのあるその声に夏妃は振り返る。と、そこには予想通り、小学校時代からの友人である雨宮真理が立っていた。

 自分の事を理解する友人の姿に夏妃は思わず笑顔になる。だが、当の真理は持ち前の冷静さで女子達に言い返す。

「…大体、この子が男子から告白されてるのアンタ達は見た事あるの?」

「えっ…。いえ、それは…。」

「でしょ?そもそもこの子が男子にモテる訳ないわよ。この辺の男子よりも男らしいこだもの。そんな子に告白するような男なんて余程の物好きだと思うわ。それに…この子も恋愛するようなタイプじゃないし。」

「は、はぁ…。」

次々に上げられる夏妃に対しての失礼な言動に女子達の体は徐々に引いていく。そして完全に夏妃の周りから離れたのを確認すると真理は満足そうにするのだった。

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