第63話

その後、言葉通り一平は町へと帰って行った。初めは寂しさを覚えていた平助達だったが、約1か月後に手紙が風と共に届けられる。手紙の内容はほぼ季節の挨拶程度だったが、その手紙は一平が元気に過ごしている証明でもあった。その為、平助や妖達の顔からは自然と笑みが浮かぶ。その後も時々だが一平からの手紙は届き、その度に平助は読みふけり胸を熱くさせていた。

 それから3年後。更に大人びた姿となった平助は山で相変わらず桂や他の妖達と暮らしていた。だが、そんな日々の中で最近平助には気がかりな事があった。それは…。

「…今日も一平から手紙が来てないな。」

いつも1月に1回は必ずといっても良いぐらい来ていた一平からの手紙。それが、ここ数ヶ月ほど手元に届いていない。桂や妖達に聞いて分からないようだ。単に『忙しい』という理由で送らないのなら良いのだが何だか嫌な予感がした。

(…今度、町に行ってみようか。)

今まで山に住むようになって距離を置くようになった人の住む『町』という場所。そこに行くのは正直言って勇気がいる。だが、自分に名を付けてくれた一平という存在が今どうしているかを確かめる為にも行こうと決意するのだった。

 早速、その自分の決意と想いを桂達に伝える。初めは平助が突然町に行くと言い出した事に驚いたようだが理由を聞いて皆は理解した。そして

「…1人でいきなり行くのは大変だろうから誰かを連れて行きなさい。」

と白き羽根を持つ大天狗が言った為、もっとも繋がりの深い桂と共に数日後に町へと向かう事にした。

 だが、平助達が決意し町へ向かう予定とした日の2日前に、突然一平からの手紙が届けられた。ちょうど山の中を見回っていたネズミの姿をした妖が、風に吹かれて飛んでいるのを受け取った。そして宛先を見て真っ先に平助の元へ届けたのだった。

「良かった…。一平からの手紙がようやく来たぞ。」

平助がそう呟き安心したのも束の間、その顔が徐々に曇り始める。何故なら内容こそ普段と変わらないのだが手紙に書かれた文字が心なしか弱く感じられたから。そればかりか別の妖が手紙の文面に触れると

「これを書いた者…。何となくですが…、生気を失い始めている気がします。」

と言い始めたのだ。その言葉を聞いた瞬間、平助は初めて胸を締め付けられる感覚を覚える。そして立ち上がると足は自然と下山する方向へと向かっていた。

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