第60話

そんな狐の少女…桂を少年は見つめ微笑む。そして自分が先程助けた男性の体を地面に横たえるとその体に触れた。

「…まずいな。この人の体傷だらけだ。すぐに手当てしないと!」

「了解!手伝うわ。」

少年の言葉に桂は頷くと早速自生している薬草を集め始める。妖なだけあって人らしき姿をしていてもその動きは風のように素早い。少年が汲んできた清らかな山の水で男性の体を拭い清めている間に、桂は薬草を集め終わる。そして石ですり潰し薬を作ると男性の体に付いた傷口に塗りつけた。

「―うっ!」

薬草が傷口に沁み込み痛みが走ったのか男性はうめき声を上げ体も少し飛び上がるように動く。それでも少年は気にせず薬を塗りつけ桂は生命力を送る。そして治療が終わりかかった頃、男性はようやく目を覚ました。

 目を覚ました男性は周りを確認するかのように黒き瞳を動かす。初めは視界がぼやけ思考も止まっていた。だが、徐々にそれらを取り戻すと男性は驚いた。何故なら見知らぬ少年と少女?が自分の顔を覗き込んでいるのだから。

「…っ!?」

男性は驚き勢いよく上半身を起こすと全身に痛みが走る。思わず顔をしかめていると少年は淡々と男性に声をかけた。

「あの…。無理をしない方が良いですよ?まだ治療の効果は出ていませんから。」

少年の落ち着いた声に高ぶっていた男性の精神も不思議と落ち着きを取り戻す。そして自分を見つめる2人の顔を交互に見た。

 灰色の髪をした少年と金髪の少女はまだ10代になったばかりだろうか?2人は幼い顔をしている。一見すると普通の少年と少女のようだが金髪の少女の方には何故か獣の耳が付いている。

(いつの間にか別世界に来てしまったのか…?)

男性はようやく働き出した頭で思考を廻らせていたが、ふと我に返ったかのように少年少女を再度見つめた。

「君達が助けてくれたのかい?その…、ありがとう。」

「いえ。それが僕達の役目ですから。」

男性の言葉に少年は淡々と答える。そんな少年を見つめながら男性は尋ねた。

「…ここは一体何処なんだい?その…、『別世界』ってモノなのか?」

「まぁ…、似たような場所ですかね。」

相変わらず淡々と答える少年に男性は驚きの表情を隠せない。と、そんな男性の表情に少年は少し笑みを浮かべた。

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