第59話
それからというもの、少年は狐の少女がいる山に住むようになった。名前のなかった狐の少女に当時山の中に多く自生していた植物から『桂』と名付けた。そして山の物を食べながら生き、時々、山の中に入り道に迷ったり傷を負ったりした者達を癒してあげたりして…。そんな日々が2年ほど続いていた。
そんなある日。以前より少し大人に近付いた少年の元に、ある1人の男性が山の中で迷っていると噂が流れた。しかもその男性は、複数の男達に追われているうちに妖達が住み着くこの山に入ったそうだ。『人間の世界と離れた暮らしをしているとはいえ、道に迷っている者を放ってはおけない。』そう思った少年は、早速妖達から聞いた場所へと向かった。
冷たい風に吹かれ木の葉が揺れる音が山の中に響いている。辺りの景色は既に闇に包まれ怪しき雰囲気も漂い始めていたが、ずっと暮らしている少年にはとっては慣れたもの。顔見知りの妖達から話を聞きながら少年は山の中を走り抜ける。そして遂に話に出てきた男性が襲われている現場へと辿り着いた。だが安心したのも束の間、複数の男達の中の1人が男性に向かって刀を振り下ろそうとしていた。
「…覚悟しろ!」
「―危ない!」
少年は叫びながら振り下ろされる刀の前に飛び出す。更に若者の腹を抱え込むと刀の前から引き離し軽々と飛び上がった。
「大の男を抱えて飛ぶだなんて…!この子供は一体!?」
人並み外れた少年の力に男達は思わず驚きの声を上げるが、すぐに我に返ると再度少年と若者に向かって襲いかかってきた。
と、その時、男達の前に1匹の狐が突然現れる。その姿は暗闇でも分かるほどに光りを帯びていて美しいのだが、何だか不思議な気を漂わせている。だが、そんな様子に気付かない男達は狐ごと切りつけようとした。
「邪魔だ!お前ごと切って―。」
「―させません!」
狐はそう言ったかと思うと狐は口から赤き炎を吐き出す。すると、その炎に驚いた男達は顔を青ざめたかと思うと雄叫びを上げながら狐の前から立ち去っていった。
「…ありがとう桂。助けてくれて。」
「いいえ。間に合って良かったです。」
狐はそう言うと、その姿を人に近い者へと変えていく。以前より少しだけ大人びてきたようだが、その姿はまだ幼さの方が強かった。
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