(第十三話)

第53話

彰の助言を受け、奈々はようやく答えを定めた。本当は答えを示すのは明日以降で良かったのだけれど…。

「…早く解きたい。そしてこの心の中に溜まったモノをスッキリさせよう!」

奈々の心は少しでも早く前に進む事を望んでいる。強く決意した奈々は部屋を飛び出した。

気付くと時刻は夕方。空は段々とオレンジ色になり始め辺りを照らしている。そんな景色が広がる部屋を出た奈々は小さく息をついた。

「さて…。決心したのは良いけれど…。あの場所に行くにはどうすれば…?」

前回は怜の家からヒトツメに教わった術と力で飛んだ。だが今日の場合はヒトツメの力が完全に戻ってない為、無理をさせないよう家で休ませている。つまり『契約書の木』に向かうまでの方法がないのだ。

「とりあえず…、怜の家まで行こうかしら…。」

奈々は怜の家に行く為に駅の方向へと足を向けた。

 と、数歩足を進めると、突然強い風が発生する。

「…っ!この風は!?」

その風に混ざる僅かな力を感じ取った奈々は足を止める。すると風は渦を巻きながら奈々の前へと辿り着く。そしてその風が止んだかと思うと見覚えのある1人の黒い着物を着た男が立っていた。

「…今回は随分と派手な登場ね?狐男。」

「申し訳ございません。急いだ方がよろしいかと思いまして…。」

そう言うと狐男は深々と頭を下げた後奈々の表情を見た。最後に会った明け方に比べて奈々の表情から迷いは消え瞳には強い意志が宿っている。

「…どうやら答えが決まったようですね?」

狐男の問いかけに奈々は頷く。

「早く決断出来て良かったです…。こういう事は急いだ方が良いですからね。」

「ええ。私も早く済ませたいと思って…。」

そう言う奈々に狐男は手を伸ばした。

「では参りましょうか?夕姫様の元へ。」

「お願いするわ。」

奈々は再び頷くと不思議な冷たさをしている狐男の手を取り近付く。一方の狐男も奈々の手から伝わり改めて意志の強さを感じ取る。納得した様子の狐男は目を閉じ何やら集中し始める。

 すると奈々と狐男の周りを囲うように風が吹く。その風は段々と強くなり2人を包み込む。そして2人を包み込んだ渦は宙に浮き上がると何処かへと飛んで行くのだった。

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