第52話
しばし2人は無言となる。と、奈々の質問が理解出来ない彰は尋ねる。
「桂川家と好きな人を選ぶって…。一体、どういう事だ?」
「…っ!えっと…。だから例えばの話よ?この前お祖父ちゃんが亡くなって変な手紙が公開されたでしょう?もし、今皆に起きてる事があの手紙のせいだとしたら…。」
以前会った時に彰も必死に真実を作り話のように語る奈々だが、上手く言葉が出ない。そんな奈々の様子にも彰は呆れる事無く優しい言葉で尋ねる。
「まぁ確かにあの手紙以来、変になった気もするけれど。で…、それがどう最初の話に繋がるんだ?」
「うん…。その手紙に書かれていた事を解くこうと思って奮闘するんだけれど、奮闘してる間に本当に結婚相手の狐が現れるの。でも、その狐は優しくて気持ちに気付いてて一緒に手紙の事を解こうとしてくれるの。…自分の命を引き換えに。」
奈々の暗くなった声に彰は気付く。今話している事は実際に彼女が抱えている悩みであるという事を。と、同時に自分が奈々に抱く思いが叶わない事にも…。だが、そんな彰の心境に気付かない奈々は話しを続ける。
「…奮闘してる間に気付いたの。彼と結婚しても良いって気持ちに。でも彼はそんな気持ちに気付いてなくて解く方法を教えるだけなの。おまけに調べている内に彼の命も同じ方法で救えるって分かったのに、1つしか叶わないないって言われて…。」
「ふーん…。まぁ、俺も当事者じゃないから何とも言えないけれど…。でも、これだけは分かった。その話に出てくる奴って、永遠を共にしたいくらいその狐の事が好きだっていう事がな。」
「…!」
真実に気付いているような彰の言葉に奈々は思わず赤面するが
「うん…。永遠を共にしたいくらい…凄く好きなんだと思うわ。」
としっかりとした口調で言う。
奈々の強い想いに触れた彰は切ないタメ息をつきそうになったが、それでも悟られぬように優しく奈々に言う。
「…だったら、もう答えは決まっているだろう?周りの事を気にせず想いを貫けよ。…後悔しないように。」
「彰君…。」
自分の事を思って言っているであろう彰の声が胸に沁みる。その言葉は自然と奈々を熱くさせ涙を誘ったが何とか堪える。そして
「彰君、ありがとうね。変な話を聞いてくれて。」
とお礼を言い互いに挨拶をすると電話を切った。その瞬間、彰は胸に不思議な痛みを感じたが、誰もその事に気付く者はいなかった―。
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