第51話
しばらくヒトツメに抱きついた後、ようやく落ち着きを取り戻し始めた奈々は話し始めた。ヒトツメが気を失った後に怜が言った通り『契約書の木』を見つけた事、現れた夕姫に『宿命を解く』か『怜を救う』かを選ばされた事を…。
「それは難しいでやんすね…。」
「うん…。」
話しを聞いたヒトツメも神妙な顔つきだった。一方の奈々もヒトツメのおかげで気持ちが落ち着いたが、当初の選択に悩む想いは消えてなかった。果たして、どちらを選べば良いのか…?
「難しいでやんすね…。以前の奈々さんだったら家の宿命を解く方を選んだでやんすでしょうけど…。今の奈々さんにとってはあの狐の怜も大事な人でやんすからね…。」
「うん…。…って、どうしてヒトツメにそんな事が分かるの!?私は何も言ってないのに!」
「当然でやんす!あっしは奈々さんと一緒にいる事が多いでやんすよ?力は弱いでやんすがそれぐらいは分かるでやんす。」
「何かヒトツメに改めて言われると恥ずかしいな…。」
思わず赤くなり照れる奈々だったが、それでもヒトツメが自分の理解者で良かったと思えた。だが、理解者だからこそ奈々の複雑な状況に共に悩むのだった。
と、そんな2人の間に沈黙とした空気が流れていると、突然、家の電話が鳴った。
「…?誰からだろう?こんな時に…。」
奈々はタメ息交じりで重い腰を上げると、呼び出し音を響かせる電話の受話器を取った。
「はい…。桂川ですけど…。」
「あっ…、奈々?彰だけれど…。」
電話の相手は奈々の親戚である彰からだった。初めて聞く電話越しの声に耳を傾けながら、奈々は彰に尋ねる。
「初めてね…。彰君とこうして電話で話すなんて。…で、急にどうしたの?」
「…っ!いやっ!ちょっと奈々と話してみたいなと思ってさ。…迷惑だったか?」
「ううん。大丈夫。」
「そうか…!良かった。」
奈々の言葉に電話越しで安堵した声が聞こえる。そして彰が何を話そうかと思考を廻らしていると、奈々の方から自然と言葉にしていた。
「あのね…。彰君に相談というか聞きたい事があるんだけれど…。良い?」
「うん。良いよ。…で、何?」
そして奈々は今まで自分の中で溜まっていた悩みを口にした。
「桂川家と好きな人と…。もし『選べ』って言われたら…。彰君はどっちを選ぶ?」
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