第50話
狐男を見送り部屋に戻った奈々は、ずっと抱きかかえていたヒトツメを枝で編み込まれたカゴに入れる。奈々を乗せて移動した時に力を使い過ぎたせいか、大きな1つ目は瞼が閉じられたままだ。消滅まではいかなかったにしても、今まで見た事がないヒトツメの姿に奈々は心配そうに見つめる。
「ヒトツメ…。貴方が目を覚まさないと…、私は困るわ…。だって貴方は…私の唯一の…。」
『理解者なのだから。』その言葉を口にしようとしたが声には出せなかった。本来、妖と呼ばれる存在は人や動物、植物等の有限の命を持った者を襲い浸食する存在だ。だから周りの者はその存在から目を塞ぎ関わらないようにし、関われる力を持つ者を次第に『異質な力を持つ者』として扱い軽蔑してきた。よって力を持っている者は他人を避け、その家族もまた拒絶したり他人と関わる事に最善の注意を払っていた。それは奈々の家も例外ではなく両親の代わりの祖父が必死に守ろうとしていた。だが、守ろうとすればするほど奈々の心にうっぷんが溜まり、ある時期になると祖父を避けるようになっていた。
そんな時期に出会ったのがヒトツメだった。出会った当時から小さい体であまり力を持っていなかったが何よりも純粋な心を持つ唯一の妖だった。それまで妖の存在は悪い方でしか捉えていなかった奈々にとって、真っ直ぐ自分を慕ってくれるヒトツメは癒しの対象になっていた。それは祖父の家から出ても変わらなくて多分この先も奈々にとってヒトツメは『理解者』だと思っている。…例え口には出せなくても。
「だから…早く目を覚まして…。」
奈々は小さく呟きながら紺色の毛に覆われた体に触れ撫でた。
すると、ヒトツメの体が僅かに動く。そればかりか閉じられていた大きな瞼がゆっくりと開き青き瞳で奈々を見つめた。
「あれ…?奈々さん…?」
「ヒトツメ…!ようやく目を覚ましてくれたのね!」
思わず笑顔でヒトツメに抱きつく奈々。そんな奈々の姿にヒトツメは驚きながらもある事に気付いた。
「…もしかして、あっしのせいで泣いてるでやんすか?」
「…っ!確かにヒトツメのせいで涙は出てるけれど…。でもこれは嬉し涙だから良いの!」
そう言って奈々はしばらくの間ヒトツメに抱きついていた。そうする事で自分の悩みが少しでも解消される気がしたから。そしてヒトツメの方も奈々の気持ちを察しているのか大人しく抱きつかれているのだった。
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