第49話
「…奈々さん着きましたよ。」
突然の声に奈々は我に返る。辺りの景色は昇ろうとしている朝日の影響で明るくなり始めている。だが、先程まで暗い山の中にいた為か、奈々はイマイチ状況を把握出来ない。思わず辺りを見渡す奈々の姿に、目の前に立つ黒い着物の男は小さくタメ息をつく。
「…覚えてないですか?昨夜、貴方は夕姫様の山へ行かれたでしょう?でも夕姫様が帰そうとしても貴方は動く事が出来なくて私が送る事になったのですけれど…。」
「あ…。」
男の言葉を聞いて奈々はようやく昨夜の事を思い出し始める。怜の見舞い後、話に出てきた『契約書の木』を見つけたが…。現れた夕姫から聞いたのは『自分の家を救う事』か『1つの存在を救う事』という選択だった。2つの事に心は揺れ動き、結局その場で答えを示す事が出来なかった。その後、己の思考まで止まった奈々に夕姫は考える時間をくれただけでなく1人で帰宅出来そうになかった為に手下の狐男に送らせたのだった。
「断片的だけれど…、何となく思い出したわ…。」
「…それは良かったです。一先ず安心しました。」
我に返った奈々の様子に着物を着た狐男も安心したようだ。小さく一息つくと奈々に背を向け歩き始める。
と、そんな狐男を呼び止めるかのように奈々は尋ねた。
「ねぇ…。夕姫はどうして私に選択をさせたのかしら?だって自分の息子の命が失われようとしているのよ?私だったら…、自分と存在の違う者に…他人に選ばせれないわ。」
奈々の問いかけに狐男は足を止める。そして振り返らず奈々の問いかけに答えた。
「それは…、分かりません。例え同じような力を持っていても夕姫様本人ではないですので…。何か考えがあるのかもしれないですし、既に諦めているのかも…。それでも…、夕姫様はありのままを受け止めるでしょう。人と関わらなければ生きていけない存在になのですから。…かつて貴方の祖父のそのまた祖父が亡くなった時も涙は見せず受け入れたそうです。それだけ…、強い心を持った存在なのでしょう。だから私達は彼女に付いて行くだけです。」
その言葉は信頼も含まれているからか力強さがあった。
「…ありがとう。答えてくれて。」
奈々は背を向け続ける狐男に向かってお礼と共に頭を下げる。その事に気付いたのか狐男は再び歩き始めその姿を消す。周りには誰もいなくなり、静かに昇った朝日で辺りが明るく照らされるだけだった。
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